スピリチュアルな本を生みだす人々

- interview with  クリストフ・シュミッツ氏


ブッククラブ回が開店してから、
今まで、たくさんの出版社の方々にお世話になってきました。
このコーナーでは、独自のクオリティをもつ書籍を
発信しつづける出版社の方にお話をうかがいます。
情報が飽和する中、本を生みだす人々の重みある言葉は、
あなたの本探しの助けになるのではないでしょうか。


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人類の文化の中で大きな位置を占める文字。
文字(漢字)は本来「神と人間・祖先・他民族との関係」と
「呪」などをつかさどるものであり、
昔の人々の内面的・精神的世界を表す
アイコンでもあったといいます。

その生涯を漢字研究に注ぎ込んだ第一人者、
白川静が研究した深淵な文字の世界は、
遠くドイツの学生をも魅了していました――
先日『常用字解』の英語版
『The Keys To The Chinese Characters』を
12年の歳月をかけて出版された
著者のクリストフ・シュミッツ氏に、
白川静氏との思い出を綴っていただきました。









“白川先生との交流と白川文字学の翻訳”


学問的な目的を抱いて、故白川静先生に京都の御宅で
2001年に初めてお目にかかり、
以来、お付き合いをさせていただきました。
先生のお人柄が今でも深く脳裏に焼き付いています。
先生は私が交流のあった方々の中では稀な、
不思議なほど対話者のポテンシャルを
前面に引き出すお力があると実感しました。
ただ温和なのではなく、
先生の強烈な個性がウィットによってやわらげられ、
そのミックスとバランスが快活な印象を与えるのでした。
この出会いがあったからこそ、
長年かけて字書の英訳を実現することができたのだと思います。
東洋文庫閲覧申請のため推薦状を依頼したところ、
白川先生は「閲覧者との関係」に
「友人」と記入して下さいました。
手紙もよく交わしました。
先生が文化勲章を授与された後でしたが、
他のどなたからも頂いたことのない、
素晴らしい和紙の手紙も届きました。
私にとって貴重な宝です。

朝日新聞の連載記事がきっかけで
白川文字学と出会いましたが、
その原点はドイツの大学図書館の『字統』でした。
日本・東アジア学以外の私の専門は
歴史と西洋・東洋の哲学史で、
特に哲学は以前から概念の定義が基本の課題でした。
この問題においても白川文字学は確たる尺度になります。
字説は東アジアの思想の入口であり、出発点です。
哲学には古来何を以て始めるべきかという問題が存在します。
そこで「哲」という字の意味・構造を引いたところ、
すぐにも先生の文字学の柱である
サイ[図A]の説に印象付けられました。

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[図A]

対話の中で白川先生は古人の意識形態を
研究するよう強く促されました。
実はその文脈の中でも、
中華思想に目を向けよということを教わりました。
これは全く先生のお蔭です。
日本人は自分の国に獣偏の漢字を
使うこと決して許さないでしょう。
日本人は今なお獣偏の漢字を
ドイツ人とその国・言語に当てていますが、
その意味がわかる数少ないドイツ人として痛ましいことです。
人の命にも関わる日本の医学等の歴史は
ドイツの医学等なしには考えられないのですが、
この字を平気で一般に使用できる心境が分かりません。
将来を担う若者たちにこの重い負担をさせてはいけない。
字面では戦国時代続きの臨戦状態に見えるので、
その意味でもその廃止を願わなければならないのです。
仏教に反した世界観の表現でもあります。
どれほど名前が大事かということが
過小評価されているのではないでしょうか。
『当て字・当て読み、漢字表現辞典』という
経済産業省のJIS漢字、法務省の人名用漢字、
文部科学省の常用漢字の選定・改定に携わった
NHK用語委員会でもある笹原宏之氏の辞典の中に、
「ドイツ」の見出し語に白川先生が私とのインタービューに
語っていただいたことがそのまま定義になっています。
本当の国際親善の前提であり、
長い目で見て誤魔化しの利かない試金石です。
漢字学のいろいろなアプローチは
そういう意味でも国際交流の改善に貢献できるでしょう。

白川文字学の真髄をいかに翻訳できるか。
誰も試みたことのない英訳という
長年の仕事の試行錯誤の中で、
私は良い翻訳を目指し続けました。
一例を挙げますと、 サイ[図A]という
「ノリトの器」の「器」に関して
すでに使われている英語のprayer vessel の 
vessel(ヴェッセル)は、
昔から主に液体などを含む
飲食関係の大体丸い器を指すので、
誤訳であることが分かります。
その代わりに取り入れたreceptacleには
そういった限定はありません。
さらにcovenantには法律契約の意味と
神前の誓約という両方の意味があります。
つまり、これは意味的に甲骨文字の世界に
ピッタリ合う訳語なのです。
こうしてサイの翻訳語としての
covenant receptacleにたどり着くまで
結果的に10年を要しました。




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