『Interview Archive』は、
過去の『Newsletter』に掲載されたインタビューです。
今回のインタビューは、2014年に行われたものです。
予めご理解のうえお楽しみください。
INTERVIEW ARCHIVE #46
アートの仕事術
ノーマン・ベンデル

自己の感情や感覚を表現せざるを得ないアーティストたち。
心の内をそのままに見て、紡ぎ、表現する。
そこに他者は介在しない。
しかし他者や社会が浸透すると制約や葛藤が生まれ、
彼らは、逡巡し、それを乗り越えようとする。
その考え方を探るため、
長年ニューヨークで活躍しているイラストレーター、
ノーマン・ベンデルさんにお話を伺った。
ベンデルさんの描くイラストはやわらかい色と繊細な線が印象的です。どことなく懐かしさを感じさせ、見る側にはメッセージを読み取る楽しさがあります。昔から「文字は人なり」と言われるように、手描きの絵も描き手の性格や性質を表すと思うのですが、ベンデルさんは、描かれるイラストに登場するような子ども時代を過ごしたのですか? また、イラストレーターとなったきっかけを教えてください。
少年時代はシカゴの田舎で自然に囲まれて育ちました。森を駆け回り、大きな沼地を探検する、まるでハックルベリー・フィンの話に出てくるような少年で、冒険に満ちた日々を過ごしていました。私が騒がしくしていると、母親は決まってペンと紙を用意しました。それで数時間は絵を描いて大人しくしていたそうです(笑)。上手だったかはわかりませんが、とにかく絵を描いて過ごしていました。その頃からずっとアーティストになりたいと思っていたんですね。小学校一年生のお絵描きの、花の絵を描く時間、他の生徒は花びらの色を塗っていましたが、私は花の絵の外、つまり何もない背景ばかり色を塗っていました。とにかく背景を描き足していました。
ハロウィンで、近所の店に絵を飾るコンテストがあり、私の絵が優勝したのです。そこで初めて「僕の絵は上手なのかな?」と思いました。でも、真剣に勉強していませんでした。というのは、チューバが好きで、大学の奨学生に推薦されるぐらいには才能があったので、音楽の道に進むと漠然と感じていました。しかし、音楽の生徒としては良い生徒ではありませんでした。他の生徒は熱心で、真剣に取り組んでいましたが、私はただ楽しみたかったんです。次第に疑問を持ち、「自分が何をいったいやりたいのか」を考えました。そこで浮かんだのが、暇さえあればいつも絵を描いているということだったのです。
大学2年生の時に美術学校に再入学し、毎日8時間絵を学びました。しかし、他の生徒に比べると、基礎ができていない私は結構遅れていて、毎日が挑戦でしたね。
約40年間、イラストレーターをされてきて、プロとして大切なことは何だと思いますか?
アートは安定した分野ではありません。今日、人気があっても、明日は新人が時の人となります。作品が日々評価に晒される厳しい世界です。私のイラストも、みんなに面白いとちやほやされる年があるかと思えば、次の年には、流行の最先端は写真になったりします。時代のトレンドによって、自分のスタイルを変えていかなければなりません。最初はいろんな作風を試みましたが、シンプルで、ふらついた線を使った技巧がうけることがわかり、今のスタイルを確立していきました。私の描くキャラクターたちの鼻も前は大きかったのですが、今は小さくなりました(笑)。
アート業界では適応性を養うことが不可欠です。時代と進み、チャンスと動くのです。卒業後、プロの画家になる道もありましたが、何をやりたいのかまだわからなかったので、まず、アートスタジオで仕事をすることにしました。さまざまな分野のアーティストに出会い、フォトリタッチなどの技術を学びました。次第に、自分がアートディレクターとして才能があることがわかり、絵もイラストも描けるディレクターとして、いろんな分野の広告を手がけました。
アート業界で成功するには、自分にあったニッチな適所を開拓することです。若者には、美術学校でどんな分野を専攻しているにしろ、基礎だけはしっかりと身につけておくようにアドバイスします。どんな仕事が来るかわからないからです。いろんな仕事に挑戦して、自分に適したニッチな市場を探していかなければなりません。アートディレクターとして自分の適所が見つかったことは私にとっては幸いでした。
ユーモアのあるイラストの方が、人は覚える確率が高いという統計もあります。いつまでも人の心に残るのは、雑誌の中のどんな記事よりも、一枚のシンプルでユーモアあふれたイラストかもしれません。私自身もちょっと意地悪なユーモアの持ち主で、いたずら好きです。楽しくないとね。ユーモアは大切ですし、人間が好きでなければなりません。人を観察するのが好きですね。

世界中の多くのアーティストがニューヨークに憧れを持っていると思います。めまぐるしく流行が変わるニューヨークでの仕事とは、どのようなものですか?
はじめはシカゴで仕事をしていました。その時に、ニューヨークから若者がやって来て、才能ある地元の人間を押しやり、採用されたのです。ニューヨークから来たというだけです! ニューヨークに行かなくてはと私も思いましたね(笑)。そして、シカゴに戻ってもっと良い職に就こうと思ったのです。しかし、ニューヨークでの職探しは大変です。シカゴから来たばかりというだけで、門前払いされ、やっとのことで仕事が見つかった時は、それは嬉しかったですね。それ以来、シカゴには戻れなくなりました(笑)。ニューヨークで仕事をすることは、どんな分野であっても大きなキャリアステップになるからです。職歴にニューヨークの文字がつくとまるで違うのです。シカゴでは「良い仕事をしなさい。多少時間がかかっても仕方がありません」というスタンスですが、ニューヨークは「最高の仕事でなければだめ。期限は明日まで。さもないと他人へ仕事をまわす」というわけです。早朝から夜遅くまで会社にいる仕事中毒の生活でしたね。
アーティストの立場からすると、日本やヨーロッパの企業と仕事をすることは、困惑することも多少ありますが好きです。彼らは、作品が生まれるまでの過程や苦労を理解してくれます。一方、アメリカでは、「あなたは私のために何ができる? 代価はいくら?」が最初の質問です。全く違った精神構造ですね。しかし、不運にも、アートで成功するためにはアメリカ式のビジネスに慣れていかねばなりません。多くのアーティストのビジネスのやり方ときたら悲惨です。まったく常識に欠けている人も少なくありません。自分の作品を人が崇拝することが当たり前だという考えがあり、嫌いな人もいるということがわからないでいます。象牙の塔に住んでいる神ではないのです。客を喜ばせるという考えがわからないのです。
客を喜ばせるとお話に出ましたが、依頼者の中には、ベンデルさんの描きたい絵を思うがまま描いて欲しいというような、仕事に自由を与えてくれる方はいますか?
稀ですが、いますね。そのような依頼者にはとても感謝しています。私もそれに応えるためにも、彼らを喜ばせるようなイラストを心がけてきました。アーティストとしては、100%自由が持てるということは、解放されたような自由な気持ちになれます。が、同時に良い作品を仕上げなければならないという緊張感もあります。


多くの企業と仕事をしてきて何を学びましたか?
広告業界では相手が何を求めているのかを理解し、それを達成するために必要な事を分析し、最良の手助けをするということです。イラストレーターとして成功できたのは読者との対話を大切にしてきたからだと思っています。テレビコマーシャルを手がける時も、私の描くキャラクターは、お茶の間の視聴者にちょっとしたウインクを忘れませんよ(笑)。
私が描く人物はどことなくチャーリー・チャップリンに似ていると思います。ユーモアがあって、でも、少し自分に自信が持てなくて。有名なスポーツ選手や企業の成功者と出会う機会が多々ありましたが、すぐに理解したことは、みんな同じだということです。私や読者や世界中のすべての人が、自分に対して、どこか不確かな要素があります。自信が無く、世界に嫌われていると誰もが心配しています。自己不信の原因は人それぞれです。私の場合は、学生時代に学業の成績があまり良くなかったということが理由なのかもしれません。頭は良かったのかもしれませんが、紙切れのテストとなると大嫌いで、集中できませんでした。しかし、知性にもいろいろな種類があり、テストで測ることはできないということも学びました。数字や専門用語が多く、理解しにくい退屈な投資情報も、私はさっと目を通すだけで、何を言わんとしているのかを理解し、イラストにしたらどうなるのかを頭に描くことができます。それが私の才能だと思っています。
40年前と今では、イラストを描く環境は、テクノロジーや技術という点からも変化してきていると思いますが、テクノロジーとの関わりをどのように考えていますか?
インターネットの普及で、人は今まで以上に頻繁に対話するようになりました。私は即飛びついた訳ではありません。他人から何度か中傷を受けたこともあり、しばらく放っておいたこともあります。自己宣伝にあまり興味はありませんが、新しい出版の宣伝のために、今はフェイスブックやLinkedIn(リンクトイン)などのSNSにも不安ながらも足を突っ込んでいます。
本のイラストの仕事が増えてきたのは、時期的には良いタイミングでした。なぜなら各業界も広告費を削っていて、新しい分野へ参入が必要でしたので。
インターネットの普及は、イラストレーターにとっては新しい挑戦です。イラストや挿絵の無料ダウンロードが増えています。また、これは将来のことを考えない愚かな行為ですが、プロでも作品をストックとして大量販売してしまい、安価な作品が出回るようになりました。コンピューターは今では手放せなくなりました。甘やかされています。作品も、昔はフェデックスやファックスで送っていましたが、今は、そんなもので送ったら誰も相手にしてくれません。絵はスキャンして、フォトショップで色などを調節して送ります。昔は、出版社の思うままでした。いったん印刷すると一切手は出せず、出版されてから「え、どうしてこんな色になってしまったんだ」ということも度々でした。通信技術の革命は、これからも私たちの生活を揺るがし、多くのことを変えていくことでしょう。社会を良い方向へ導くものと確信していますが、油断はできません。法律の整備も必要です。アーティストも昔には戻れませんし、社会の進化に対応し足を動かし前進していくのみです。

ベンデルさんのイラストは、扉や光のモチーフなど、神秘的なイラストが多いように思います。
私たちの日常は多くのことに囲まれていて、気づけていないだけで、たくさんのことから影響を受けています。扉や枠、光など、私のイラストには多くのシンポリズムが登場します。扉は、一つの時代が終わり、新しい時代が始まるという意味があります。例えばこのイラストで人物がテクノロジーの発達を告げる扉の向こう側ではなく、まだこちら側にいるのは、私の心の中でテクノロジーを絶対視したくないという気持ちがあるからです。ただ、テクノロジーがもたらすマジックは伝えたい。
精神、アート、現実の世界はどのように繋がっていると思いますか?
深く繋がっていると思います。創造性は精神性と繋がっていないと生まれてきません。アイデアを探す時は、精神的なガイダンスを求め、ポジティヴで、正しい、前向きな思考を心がけています。
前世については、どうお考えですか?
子どもの頃、木の上に小屋を作り遊んでいました。それと関係あるかは不明ですが、後に、私の前世はアメリカインディアンのイロコイ族だということを知りました。夢で見たのです。イロコイ族は母系制で、女性側の家系のもとに何世代もの家族が住んでいたので、彼らの住居は30人が優に住める大きさでした。私の妻は霊能力に長けた女性ですが、ある晩、床に座っていた私がイロコイ族に変貌したというのです。髪が無くなり、顔は塗装され、動物の皮でできた服を着ていたそうです。イロコイ族は北アメリカ広域に居住し、他の部族を支配していたインディアンです。一つひとつの枝は弱いが、一つの幹のように結ばれていれば大木のように強くなると説く、進歩的な思想を持つ部族です。支配下の部族からは人質をとり、種族内での平和を維持する約束を取り付けていました。アメリカはイロコイ族から政府の構造などを学び、憲法作成にも助言を受けたと言われています。母系制のイロコイ族の主導権は女性にありました。酋長も女性が任命しました。女性が常に決定権を握っていたのです。私も、妻の言うことは常に正しいと思いますよ(笑)。
インスピレーションはどんな時に湧きますか?
何の偏見も持たずに、心を開いて周りを見ることを常に心がけています。心を閉ざして、自分が見たくない物は見ないという人も多くいます。それは簡単なことです。私は、郊外にある自宅兼スタジオで一日中過ごすので、人と会う機会も少なくなりがちです。しかし、社会で何が起きているのかはいつも意識しています。朝、起きたら、身支度を整え、近くの店にまずベーグルを買いに行きます(笑)。そして、新聞を買います。こうした日常の中でもマイクロコズム、宇宙の縮図としての人間社会を多く観察できますよね。

誰もが子どもの頃は持っていた冒険心や夢を保つことについてどう思いますか?
子ども心を持ち続けることは大切です。多くの人が想像力や希望や夢を、成長すると無くしてしまいます。子どもの頃は、やりたいことや欲しいことなど、絶対に無理なことでも気にせずに、イマジネーションを膨らませて多くの夢や希望を抱きます。大人になっても、そんな気持ちを持つことに害はありません。100年後や未来に夢が叶うかもしれませんし。
アートは社会のために何かできると思いますか?
新しく引っ越してきた人が「ここに長く住もう」と思って家をきれいにすると、周りの人も自然と影響を受けることがありますよね。そうやって社会が少しずつ変わっていくこともあると思います。みんなが自宅の裏庭を見直すことだと思いますね。ひとりが裏庭をきれいにしたら、それを見た近所の人も、自分もあのような、きれいな裏庭を持ちたいと思うでしょう。人が見習うようなことを、自分から率先して始めることです。隣の裏庭を批判するのではなく、まず、自分の裏庭をきれいにし、隣人がそれを見習うようにするのです。人に優しくすると、誰もが優しくしあうようになります。
ありがとうございました。
ノーマン・ベンデル
Norman Bendell
1943年シカゴ生まれ。ミリケン大学を2年で卒業後、アメリカン・アカデミー・オブ・アーツで3年間美術を専攻。1969年、ニューヨークに移住し、パナソニック、電通、Al Paul Leftonなどでアートディレクターを務める。その後、イラストレーターとして初めて参加したキャンペーンがその年の広告賞を多数受賞。以降、大手企業の広告や雑誌、新聞で活躍し、数々の賞を受賞している。ベストセラーとなった “The Care and Keeping of You ~The Body Book for Girls”など、書籍、出版物のイラストも多数手がけている。
関連書籍
アート・スピリット
ロバート・ヘンライ / 国書刊行会
2750円(税込)
『アート・スピリット』は、あなたの中に眠る表現することへのエネルギーを思い出させてくれるかもしれない。著者のロバート・ヘンライは、すべての人の人生にはアートとの流麗な繋がりがあると信じて、人間の秘めた才能を引き出すことへの努力を惜しまなかった。彼の芸術理解の教えは、デイヴィッド・リンチ、キース・ヘリングをはじめ、数多くの芸術家たちに影響を与え、人生哲学の書としても読み継がれてきた。著者の思索の断片を書き留めたようなこの本は、教えのみならず彼が生きた当時の日常の空気までも蘇らせる。
決定版 脳の右側で描け
ベティ・エドワーズ / 河出書房新社
2915円(税込)
この本は、きっとほとんどの人に「これ、やってみたい」と思わせる魅力を持っている。上手に絵を描けない人がこのメソッドを体験すると、短期間で劇的に絵が巧くなってしまうというのだから。その秘密は、「右脳的認識モード」への切り替えである。対象全体を見ないようにして、輪郭だけを追う。ポジとネガのように、バッググラウンドの輪郭を見る。これは、「左脳的認識モード」を、いかにして手放すかということだ。多くの人は、物を見る時、自分の中でシンボル化した意味を無意識に認識している。そのものをありのままに見ることができなくなっている。右脳的認識モードへの切り替えができるようになると、注意深くなり、創造的になり、エネルギーと自信が湧くなどの現象が、自分の中に起こってくると言う。
内なる創造性を引きだせ
ベティ・エドワーズ / 河出書房新社
2750円(税込)
世界的ベストセラー『脳の右側で描け』の著者が、創造性の秘密を解き明かす。創造性とは、問題解決を促す力や効果的な意思決定を導く力であり、また人間の願望や知性のニューフロンティアを切りひらく力である。「創造性」は特別な人が持っているものではなく、誰もが持っているもの。その引き出し方と活用方法をわかりやすく解説する。
ブルーノ・ムナーリ / 至光社
1571円(税込)
赤色のペンでぐるぐるとぬりつぶす、黄色の色紙を丸く切り抜いてみる。あなたの太陽はどんな太陽か?くろい太陽、しろい太陽、、優れた絵本作家ブルーノ・ムナーリが想像力を誘う。いろんなもので太陽を描きたくなる一冊。
新版 ずっとやりたかったことを、やりなさい。
ジュリア・キャメロン / サンマーク出版
1650円(税込)
もっと創造的になりたいと思い、本来の自分は創造的なはずなのにそうなれないことにもどかしさを感じている人は少なくない。本書は、初版から四半世紀の間、人々の創造性を回復させ、人生に変容を起こしてきたロングセラー。創造性の開花を阻むものを取り除くための12週間のプログラムは、モーニング・ページとアーティスト・デートとよばれるツールを基本とし、各章のテーマ別に毎週のエッセイとエクササイズ、課題、チェック項目で構成されている。顕著な変化としてシンクロニシティが起こりやすくなるといったこともあるという。内に秘めた創造への衝動を解き放ち、豊かな人生をクリエイションしていこう。
見えるものと観えないもの
横尾忠則 / 筑摩書房
1034円(税込)
心霊現象やUFOとの遭遇など数々の不思議な体験をもつアーティスト横尾忠則。本書は、彼の創造力の源泉ともいえる物質的世界と非物質世界が交わる領域に触れながら、各界を牽引する第一人者たちとの語らいによって異界の扉をひらいていく。淀川長治、吉本ばなな、中沢新一、栗本慎一郎、河合隼雄、荒俣宏、草間彌生、梅原猛、島田雅彦、天野祐吉、黒澤明との、この世ならぬ対談11編を収録する。
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ディヴィッド・ホックニー / 青幻舎
7150円(税込)
ダ・ヴィンチやカラヴァッジョをはじめ、西洋絵画における巨匠たちの作品制作に鏡やレンズがいかに用いられたか。現代の巨匠、ホックニーが科学的、視覚的根拠により初めて実証した好著。500点に及ぶ膨大な絵画やスケッチの複製をホックニーの解説とともに掲載。多くの古文書や近現代文書の抜粋が、一層興味深く示されている。主な掲載作家は、カラヴァッジョ、デューラー、ベラスケス、ファン・エイク、ホルバイン、レオナルド・ダ・ヴィンチ、アングルなど。豊富な図版、詳細な解説を含む美術学的にも必携の大著である。世界中で一大センセーションを巻き起こした美術史における新発見。図版:510点(カラー図版422点)
―出版社紹介より










