Vol.871

2026年10月 満月のたより

対話の扉

Image by AWWA

今月も皆さまに素敵な出会いをお届けできれば幸いです。

2026年10月 満月のたより

対話の扉

人は ひとりでは生きられず
複雑で多様な関係性で支えあう 社会的な生き物である

心理学者アドラーが「すべての悩みは対人関係の悩みである」と説いたように
価値観も習慣も異なる他者とわかりあうことは容易ではない
しかし 自分のことが見えにくい私たちは
他者を鏡にして はじめて気づけることがあり
見えない縁が結ばれる予測不能な可能性は
不確実なこの世界の希望だともいえる

かといって 特定の相手との関係性に固執してしまうと
依存や束縛によって身動きがとれなくなることもある
親しい関係性であっても
互いの領域を尊重しあえる ほど良い距離感は必要だ

執着やこだわりを手放し
自他の間に 健全で安心できる緩衝地帯を設けること
柔軟で多角的な心の眼を持つこと
意識が変われば 以前は見えなかったものが見えてくるはず

今号では 停滞や対立に陥った関係性に光を当てながら
対話の扉をひらく鍵を探してみたい


自然は多くの生物たちが共存できるように作られている。
それが、ゴリラとともに熱帯雨林で暮らした私が悟ったことだ。
ゴリラに限らず、自然は自らの言葉で語りかけてくれることがある。
それを感知するためには、人間の世界を出て、
彼らの息づかいが感じられるように自分を変えることが必要だ。
現代の科学技術は、
サルやゴリラのように人間に近い動物以外の世界に入っていくことも可能にしてくれつつある。
でも、いくら高い技術を用いても、
自然を敬い、自然に同化しようとする心がなければ、
あちらの世界には行けない。

– 山極寿一 - 『争いばかりの人間たちへ』より


[Science / 進化論]

争いばかりの人間たちへ
ゴリラの国から

山極寿一 / 毎日新聞出版
1760円(税込)

なぜ人間の世界は、こんなにも争いや暴力に満ちているのか。絶えない紛争、差別、いじめ、虐待──人類700万年の歴史において、争いの痕跡が見つかるのはわずかここ1万年のことだという。いったい、どこで道を誤ってしまったのだろう。ゴリラ研究の第一人者が、歴史や進化を遡り、ゴリラの目で人間世界を見つめ直した本書には、人類が抱える地球規模の問題を解くヒントが明快に示されている。祖先の暮らしぶりを彷彿とさせるゴリラの国に学ぶ、他のいのちと共存して生きる知恵。


[Wisdom / 禅]

沈黙
雑音まみれの世界のなかの静寂のちから

ティク・ナット・ハン / 春秋社
2200円(税込)

人生の壁に直面した時、立ち止まり、いまここにある苦しみを深く見つめる時間も必要だ。頭の中の騒音を鎮め、思考のループをそっと手放してみたら、何が起こるだろう。マインドフルネスを世界に広め、対話と和解、そして平和を訴えつづけてきたベトナム人禅僧ティク・ナット・ハンが、私たちの中にある「聖なる空間」を取り戻すための沈黙のちからを語る。


[Life / 人生・生き方]

見えない世界で見えてきたこと

石井健介 / 光文社
1870円(税込)

ある日目覚めると突然目が見えなくなっていたとしたら、自分はどのように状況に反応し、どう生きていくだろうか。ブラインドコーディネーターである著者の自伝エッセイは、独特の爽やかさとユーモアの漂う文章でその一つの例を示してくれる。テキストを打ち、iPhoneの読み上げ機能で確認しながら執筆、半年間で7万字を書き上げ、作られた本書。表紙にはプリズムの箔押し加工がほどこされていて、文中に出てくる印象的な言葉と同じく、角度を変えると光を拡散する。


[Life / 人間関係]

わかりあえないことから
コミュニケーション能力とは何か

平田オリザ / 講談社
968円(税込)

現代は「わかりあう」ことに囚われすぎているのではないか。演劇ワークショップを用いたコミュニケーション教育に力を入れてきた劇作家が、わかりあえないことを出発点として、身体性に根ざした鋭いコミュケーション論を展開する。16歳で高校を休学し、自転車で世界26ヶ国を巡った経験を持つ著者は、多様な価値観が交錯する世界をしたたかに生き抜く力についても言及。他者との出会いによって自分自身が変化することを喜べる「対話的な精神」や、他者との共感の糸口を粘り強く探る「対話の基礎体力」の育成を提唱する。


[Life / 人間関係]

聞く技術 聞いてもらう技術

東畑開人 / 筑摩書房
946円(税込)

対話を試みたのに対立を深め、かえって関係性がこじれてしまった。そんな苦い経験を持つ人は少なくないかもしれない。人生山あり谷あり、誰だってまわりの声に耳をふさぎたくなる時はある。本書は、カウンセリング一筋に20年近い臨床経験を積んだ著者が、現場で培った「聞く技術」と「聞いてもらう技術」をすべて詰め込んだと語る一冊。世界中で深刻な分断が表面化しているいま、まずは目の前の声に意識的でありたいもの。世界を一つのネットワークとして捉える意識にあれば、個人の小さな対話は相互理解の波紋を広げる原動力となるのだ。


[Society / 社会]

覚醒のネットワーク

上田紀行 / KTC中央出版
1650円(税込)

たくさんの殻に囲まれた私たちの世界。社会にはびこる問題の根源を驚くほどやさしい言葉で解き明かしながら、一人ひとりが殻を破り、他者との間にひらかれたネットワークを築いていくための道を提案する、1989年刊行の意識変革の名著、待望の復刊。文化人類学者であり、東京工業大学のリベラルアーツ研究教育院長である著者の原点となるこの本には、無力感や孤独感に苛まれた人々の心に勇気と活力の火を灯す、熱いエネルギーがほとばしっている。