『Interview Archive』は、『NewsLetter』『Spiritual Databook』に掲載されたインタビューです。
内容はインタビュー当時、2006年のものです。予めご理解のうえお楽しみください。

SPECIAL INTERVIEW ARCHIVE #11 2006

免疫のミラクルワールド

安保徹 / 免疫学者

人間は、弱っている時には抵抗力が無い。
あと、人間って楽をしていると、体はふくよかになるんだけど、筋肉が弱くなったり、骨が弱くなったり、関節の可動性が弱くなったりして、いろいろな機能低下が来る。そうすると疲れやすくなって、低体温になって、リンパ球があっても働かなくなってしまう。その時はやられるね。無理して、疲れて、リンパ球が少なくなってもやられるし、楽をして、低体温で、リンパ球が働かなくてもやられる。はつらつと生きている人は、その中間のちょうどいいところで跳ね返しているわけだよ。

薬物で症状を押さえ込む現代医療に疑問を感じている人は多い。
では、実際に体調をくずした時、私たちはどうすればよいのか?
免疫という生物本来が持っているシステムを理解すれば、自ずと答は見えてくる。
今回は、免疫学の権威である安保徹教授にお話をうかがった。

B (ブッククラブ回) ─「免疫」というシステムは、とても不思議なものだなと思います。

本当は、ちっとも不思議なものではないんだよ。免疫というのは、我々の先祖の生き残りなわけさ。人間は多細胞生物で、いろいろな細胞から成っているんだけど、どうやって体を守り続けたかというと、単細胞生物時代のアメーバを、そのまま特殊化しないで残したんだ。だから、異物がくると駆けつけて、抗体を出して、凝集させて、無毒化する。その内の小さな異物対応がリンパ球。大きな異物はマクロファージと顆粒球が対応していて、膿ができて治る。この二つのバランスで体を守っているんだ。そういう考え方をとると、不思議というよりも、一番原始的で大事な細胞だってわかる。
本来は体を守る働きの細胞だけど、あまりにも私たちの生き方が偏ると、過剰反応を起こしてくる。顆粒球は組織破壊の炎症まで進むし、リンパ球の方は増えすぎるとアレルギーが起こってくる。今、日本なんか美味しい食べ物がいっぱいあるし、車はあるし、便利だからね、穏やかな生き方になりやすいでしょ。だからリンパ球過剰の病気が増えてきて、感染症はすっかり影を潜めて、アレルギーが増えてきたんだね。

B ──アレルギーもそうですけれど、最近は過剰な清潔志向があったり、熱が出ても薬で抑えてしまったりして、かえって人間の体を鈍くしているような気がします。

それはあるね。そもそも人間も動物だから、ある程度、細菌とかほこりのある中で生きてきた。私たちの白血球って、やっぱり刺激がある時に数が増えて鍛えられる。だから日本人がインドに旅行をすると、みんなお腹を壊してしまうけど、私は壊さないんだ。私は廊下にご飯が落ちても拾って食べるし(笑)、そうやって普段から鍛えておけばいいのさ。

B ──現代は、子どもに予防接種を受けさせないと保健所からうるさく言われるなど、社会的に薬で病気を抑えることが正しい、という風潮になりました。

予防接種なんかは比較的犠牲者は少ないんだ。たまに被害者は出るけど、何万人にひとりとかだね。だけどステロイド軟膏とか抗ガン剤とかは、もう10人使えば、ほぼ10人か9人はその害だけで破綻するから深刻なわけさ。食品添加物が危険だって言うけど、1~2週間コンビニの弁当を食べても、まあ、多少は具合が悪くなるけど、なんとかなるでしよ。ところが薬はそうはいかないからね。本当に具合が悪くなるから。実際、薬を飲んでいる人ってみんな体調悪いでしょ?

B ──先生は、ガンになった方がインフルエンザで高熱になって、治ってみたらガンが消えていたという例を紹介されていますね。自然の免疫機能がいかに良くできているかを教えてくれます。

実際、熱が出るとつらいし、下痢が続くとすごく消耗するでしょ。だから間違えやすい。熱はリンパ球を働かせるための条件だし、毒を下痢で出しているんだよ。でも病院では、みんなマニュアル化されて、熱が出たら熱を下げようとか、下痢したら下痢を止めようとする。今みんな、すぐに病院に押し掛けるから、病人は多いし、治せないし、もう忙しさが悪循環になっている。だから、さばくためには、その場をしのぐ薬を出す。私はずっと免疫の研究ばかりしていたから、医療現場がこんなに薬漬けになっているとわからなかった。アトピー性皮膚炎にステロイド軟膏をみんな使っているでしょ。「なんだこれ?」と思ったわけさ(笑)。出す医者も変だけど、患者もそれが本当に治るための薬かどうかは、1~2週間でわかるはずなんだよね。塗った後、半日だけすっと消えるけど、薬が消えれば、また症状がぱっと出てくる。その場しのぎだっていうのが誰でもわかるでしょ。ところが、権威に言われたり、みんながやっているからって、自分の野生の動物の勘を破棄して、おかしいって気がつけないんだね。

今、受験勉強で医学部に入って、ただ知識を詰め込んでいるだけだから、応用がきかない。医者になっても教えられた通りに薬を出すしか能がない。だからうかつに病院に行けなくなっているんだよ。

B ──もう、病院には行きたくなくなりますね(笑)。

現代医学の中で得意な分野と、まったく不得手な分野を、明らかにしなきゃだめなんだ。すべてがだめと思ったら病院に行かなくなっちゃうからね。たとえば分析研究はすばらしい。救急医療とか応急処置もすばらしい。麻酔をして手術ができるわけだからね。診断学もすごいでしょ。でも不得意な分野で対症療法をやると、かえって病人に迷惑かけてしまうんだよ。そこをきちっとわきまえると、医療の方向性が出てくるよね。

B ──さしつかえなければ、先生がお考えになっている現代医療の不得意な分野を、具体的に教えていただけますか?

一番目につくのはアレルギーだね。アトピー性皮膚炎とか気管支喘息に、ひたすらステロイドを使ってその場しのぎをする。ステロイドの場合は、本当ににっちもさっちもいかなくなって破綻をきたすまでに10年はかかる。たいていの人はそこまでたどり着く前に、「あ、この薬は単なる対症療法で、もぐらたたきみたいになっている」と気づいて離れるんだけど、やっぱり両親が学校の先生とか、公務員とか、いわゆる現代社会を肯定している人たちだと、「お医者さんが言うんだから確かだろう」と深みに入っちゃう。そうやって犠牲者が出る。

アレルギーの次はやっぱり、組織破壊の病気。潰瘍性大腸炎とかクローン病。これもほとんど精神的なストレスで起こるんだけど、みんな治る時に腫れたり、痛んだりする。火傷をしても怪我をしても、組織修復のために必ず腫れあがるって誰でもわかるでしょ。そうやって血流を増やして修復するのが病気の治るステップだって。だから消炎剤で止めちゃだめと私は言っているんだけど、これがまた犠牲者が多いんだ。高校受験とか大学受験の時に、こういうストレス病にかかる。その時に間違った治療法をして、治る機会を失うんだよ。あとは、ガンだね。ガンというのは、ものすごい無理をした結果、発症している。だから体をいたわらなければいけないのに、それを抗ガン剤とか放射線で痛めつければ、治る機会がほとんど無くなってしまう。

B ──先生は、ガンの早期発見が、かえってマイナスを生むとおっしゃっていますね。

MRI(磁気共鳴撮影法)やCT(コンピュータ断層撮影法)が導入されてから、急にガンの診断の精度が上がって早期発見されるようになった。それで間違った治療に入るから、死ぬ人が増えるんだよ。結局、早く見つけても治療が間違っているうちはマイナスに働く。私たちは、残業が続いて疲れると自然に休むのが普通でしょ。そういう時に検査をしてガンが見つかると、もっと過酷な治療に入るから、ますます悪くなる。病気っていうのは、みんな無理をするからなるんで、休めば自然に治る。ガンもその流れなわけさ。だから、無理矢理見つけて治療をすると危険なんだね。早期発見、早期治療っていうのは、ある意味では、進行した人を見捨てるキャンペーンなんだ。ちょっと再発したり、進行した人には、医者が治ると思ってないから、やっぱり、つれない言葉が出てしまう。「この治療をしなかったら、すぐガンが広がってしまう」という言い方しかできない。治ると言えないわけだからね。だから治療全体がすごく悪い雰囲気になる。

B ──そうすると、ますます気分的にも落ち込みますよね。今、病院に行くと、「気」が悪くて、行っただけで消耗する感じがします。

なぜかというと、医者にみんな自信がないのさ。病気というのは治せないものだって感じになってしまったから。一時しのぎの薬を長期間投与するから、もうだめだと予測できるんだよね。病院に行っても、治ると言ってくれれば患者は明るくなるけど、先生自身が自分の治療で治ると思ってないから、やっぱり悲観的な事をいっぱい言うという悪循環に入っている。
今、若い医者って意外と元気ないんだよ。治せないからさ。せっかく難関をくぐり抜けて医者になって、さっぱり治せないんじゃ夢もだんだんしぼんでいくよね。
ところが私の考え方だと、「無理をして病気になったんだから、生き方を変えて体をいたわりましょう。そうすれば少なくとも今より良くなりますよ」となる。ガンが進行してからでも、体をいたわれば自然に退縮に入ることがわかると、脅かす必要がないからね。脅かしのかわりに励ましでしょ。そうすると、医者の方も嬉しいんだね。私の理論を実践すれば、夢と希望に溢れてくるよ(笑)。
たとえば将棋のプロだったら、いろいろな戦術を学ぶよね。医者も本当はプロなんだから学ばなきゃだめなんだよ。だけど彼らは微妙に危険を感じているんだね。私の本を読むと我が身が危ないとわかるわけさ。だから自分の身を守るために私の本は読まない。たまに勇気を持って読む先生たちは、やっぱり変わる。だって簡単なんだもん(笑)。

B ──今まで薬を使っていた先生が変わった場合、実際の治療はどう変わるのでしょうか?

漢方薬を使うとか、鍼灸を使うとかサプリメントを使うとか、あとは水とかアロマテラピーとかホメオパシーとか。体に負担のない、いろいろな励まし方はあるからさ。本当は口だけで十分だと思うんだけどね。ただ人間というのは、口だけでやるよりも、「あ、肩が凝っているね、手足が冷たいね」と言って、針とか刺して、実際に反射で温かくなると、やっぱり治り方は違うと思うから、そういうのはいいと思うけどね。

B ──もう少し具体的な免疫の機能についてお聞きしたいのですが、たとえばリウマチなどのように、免疫機能が自己を破壊していくようなものがありますよね。

リウマチとか膠原病って、女性が多いでしょ。どうしてかというと、女性の方が圧倒的にリンパ球は多い。色白でリンパ球が多い人というのは、アレルギーにもなるし、虫さされにも反応するし、感染した時にも高熱を出すとか、独特の過敏反応を出す。
精神的にすごくつらい時、帯状疱疹が出たり、口唇ヘルペスが出たりする。イボが出るのもストレスなんだね。で、ウイルスが暴れ出すわけさ。そもそもリンパ球が多い人は、元に戻る時に炎症を強く起こす。それは、壊れた組織を排除する為に、自分と反応するリンパ球が出てくるわけで、マイナスじゃない。必要だから出てきているんだね。だから自己免疫疾患は、けっして自己を攻撃しているのではない。ただ、治る時に激しい炎症を起こすからつらいわけさ。それで消炎剤とかステロイドで止めにかかる。薬である程度抑制するという感覚だとまだいいんだけど、薬で止めた事が治る事だと思うと、いつまでも続いてしまう。むしろ、その後の治療の問題なんだ。自己免疫疾患は、説明に困るように見えるかもしれないけれど、それでもやっぱり体は間違いを起こしているわけではない。みんな生き方の無理だね。ストレスが解除されれば、治るんだよ。

B ──最近は、鬱とか神経症など精神的な疾患もよく目につきます。これも免疫と関係があるのでしょうか?

ストレスがあると、そのまま体の不調になる人もいるけれど、頭が混乱して、興奮してしまったり、絶望したりする人もいる。両方くる事も多い。だから、結局、原因はみんなストレスだね。悩みを抱えるのも、長時間労働も、薬を飲むのもストレス。それが、交感神経緊張を作って血流障害を起こしたり、脳ではアドレナリンが大量に出て興奮する。興奮は神経の伝達ブロックを狂わすから、考えられなくなったり、怒り狂ってみたり。怒りは不安の防衛だから、病気が治らない。治すには、まずストレスを取り除くこと。体調不良は必ず、生き方に歪みがある。更年期障害でも自律神経失調症でも、あれ、ありがたいんだよ。どうしてかというと、生き方の偏りを教えてくれているわけさ。悪者にしたらもったいないよ。具合が悪い時は何か歪みがあるのさ。

B ──いったん自律神経のバランスが崩れてしまったり、過去に薬を使っていた人が、これから、もう少しまっとうな生き方をしようと思っても、しばらくの間は反応がたくさん出て、不安になることも多いと思います。この時期をどのように経過していけばいいと思われますか?

やっぱり一番大事なのは、体は間違いを起こさないという事を覚えておくこと。体が何を起こしても間違ってない。むしろその前につらいことがあって、それからの脱却反応という事が多い。
今、具体的に病気を起こすストレスのひとつは、長時間労働だよ。二番目は心の苦悩。三番目はたくさん薬を飲む事だね。これがものすごいストレスになる。あとは、夏に強い冷房に当たること。これもすごいストレスなんだね。だからまず、ストレスの原因を探って、周りの環境を改善する。夜更かしをしていないかとか、食事が乱れてないかとか、考え方があまりにも偏ってないかとか。

B ──自然のリズムを思い出すということですね。

自然のリズムを無視すると、まず、夜更かしをするでしょ。そうすると朝、まだ眠っている状態だから、ご飯を食べられないでしょ。すごい低体温で、なんか眠くてぼーっとして、はつらつとしない。そうやって、人間のサイクルがおかしくなっている。

がんばりやさんは、いい仕事をしたいとか、人に認められたいと思って、体のサインを無視するんだよ。 そして大病をする。たとえば、6時間睡眠と7時間睡眠では、たいした差がないかと思うかもしれない。たしかにすぐ破綻はしないけど、短い睡眠時間を10年続ければ、必ず体に歪みがきて体調不良になる。
これまで夜更かしを続けてきた人が、急に生活を変えるのはたいへんだから、とりあえず1時間シフトする。体と相談しながら、1時に寝ている人は12時にして、次には11時にしていく。そこらへんまでいくと、いろいろな症状が取れてきて体調は戻るはずだよ。私は9時に寝ているけどね(笑)。

B ──後からの経験によって生じる免疫機能もあるという事ですが、社会や地球の環境がどんどん変わっていく中で、人間の免疫機能も変わっていくのでしょうか?

多少は変わると思うけど、やっぱり1万年とか2万年の人類の歴史の流れを、100年や200年で変えられるわけがない。やっぱり、体調を悪くした時は、過去、人間はどうやって生きてきたのかという、そのリズムになるべく近づける方がいい。
たとえば、今、仕事でパソコンの画面を見続けることが多いけれど、あれは眼が疲れるんだよね。耐えられる人もいるけど、いったん具合が悪くなるとすごくつらい。そういう時は、あれだけチラチラしたものを長時間見続ける能力が人間にないんだって考えなきゃだめなんだよね。だから人間の能力を基本にして、機械の方を変える工夫をすればいいと思うんだ。チラチラしない画面を考えるとか、あるいは、1回紙に書いてそれを読みとる機械を作るとか。そうやって工夫をこらす発展だったらいいけど、体の方を変えるというのは無理だと思う。

B ──たとえば、HIVや鳥インフルエンザなどの新しいウイルスについて、どのようにお考えですか?

人間がいろいろな開発をしたり、未開の地域に入ったりして新しいウイルスと出会うと、やっぱり新しい感染症が生まれる。だけど、そういう激しい感染症って、初めはすごく強い症状を出すけど、だんだん回数を繰り返すうちに軽症化していくんですよ。だからエイズもひと頃みたいに騒がれなくなったでしょ。軽症化していって、なかなか死ななくなっちゃった。たとえば、インフルエンザなんかでも、普通に元気な人は、ほとんど死なないからね。弱ってそろそろ死にそうだという人が死んでいるだけで。そんなに大騒ぎするほどでもない。

B ──ウイルスに感染しても、死ぬ人と生き残る人がいます。その差はどういう所にあると思われますか?

人間は、弱っている時には抵抗力が無い。あと、人間って楽をしていると、体はふくよかになるんだけど、筋肉が弱くなったり、骨が弱くなったり、関節の可動性が弱くなったりして、いろいろな機能低下が来る。そうすると疲れやすくなって、低体温になって、リンパ球があっても働かなくなってしまう。その時はやられるね。無理して、疲れて、リンパ球が少なくなってもやられるし、楽をして、低体温で、リンパ球が働かなくてもやられる。はつらつと生きている人は、その中間のちょうどいいところで跳ね返しているわけだよ。

B ──生物界は自然淘汰によって種を保ってきたと言われています。しかし、現代は、社会的にすべてを守ろうとする文化です。自然のシステムと人間のシステムのギャップについて、何かお考えはありますか?

生物の進化って、必ずしも強いものが生き残っているわけではないんだよ。弱いものが生き残っている例も多い。それはなぜかというと、弱いものは工夫をこらすんだよね。哺乳動物も、恐竜の影で夜しか活動できなかったとか、独特の弱さがあった。そういう風に堂々とは生きられないグループだったけど、そこから また進化しているんだ。ひたすら強くなると、今度は強さゆえに絶滅する。だから、生命って弱肉強食ばかりではない。結局、弱いか強いか、本当の事は言えない。人間にしたって、ストレスに耐えられる人の方が強いとは限らない。逆に無理をして、早く破綻する可能性もあるからね。

B ──ところで、医学の立場で先生のような考え方をしていると、周囲からの抵抗がありませんか?

うん、私の話をすると怒り出す先生も多い。やっぱり今までの20年とか30年を否定されるのがわかるでしょ。そんなので治るんだったら今まで自分がやってきたのは何だってことになる。
先生ひとりひとりに「そんなので治せるの?」と聞けば、みんな「治らない」と言うんだよね(笑)。だって、皮膚科って、ステロイド軟膏ぐらいしか使う薬が無いんだよ。そのかわりに治す方法というと、薬を使わないで、食生活を見直したり、体を鍛えたり、お風呂に入って血行を良くしたりということになる。それだとなんかお医者さんらしくない(笑)。結局、薬を使いたいんだね。

昭和40年代ぐらいまでは薬物万能主義じゃなくて、いろいろな体の反応で医学を理解しようという流れがあったんだけど、日本も豊かになって、物質文明、科学文明が支配するようになって、なんでも薬で病気を治せると思うようになってしまった。対症療法をやっているだけの治療では、本当に治す力はないんだよ。治す力は患者そのものにある。だから、私の話は異端だと言う人もいるけど、異端どころか、あまりにもまともなわけさ。

B ──この流れが変わることはあるのでしょうか?

だいたい、時代や国が混乱する時って、ひとつの分野だけが混乱することはないんだね。混乱した組織を支えるための、混乱した民衆がいる。あまりにも文明社会が偏って、人はめちゃくちゃに生きて、病院に押し掛ける。もう全部、歯車が狂っちゃった。今、みんな狂っているんだよ。今の教育の世界も、学級崩壊とか暴力とかすごい。教える先生は自信がないし、それで育った子どもがまた先生になれば、もっと自信ない。だから、せいぜい自信のなさをマニュアルでクリアするしかないんだね。
だけど、そういうのもいいんだよ。人間って目を覚ます時は、いったん良くても悪くても、極限まで行かなきゃだめなんだ。江戸時代の末期には、黒船が来ても幕府旗本はほとんど骨抜きになっていた。だから新しい勢力が出てこれたんで、幕府がまだ能力を残していたら、あんなにすぱっといかないからね。だから今の医療も行けばいい。まあ、時代ごとに、こういう波が来るんだね。

B ──そろそろ、その大転換が起こるかもしれないと感じておられるのでしょうか?

今、何かがおかしいことに気がつく人が、ポツポツ出てきている。これが1~2割になると、ぱっと逆転 するんじゃないかな。全部が変わる必要はない。1~2割の患者が病院に行かなくなると、経営が成り立たなくなるからね。10年、20年では変わらないかもしれない。でも、変わる時はぱっと変わるよ。

B ──どうもありがとうございました。


安保徹 (あぼ とおる)
1947年-2016年 青森県生れ。
東北大学医学部卒。米国アラバマ州立大学留学中の80年に、ヒトNK細胞抗原CD57に対するモノクローナル抗体「Leu-7」を作製。89年「胸腺外分化T細胞」の存在を発見。96年「白血球の自律神経支配のメカニズム」を解明するなど、数々の大発見で世界を驚かせる。一般向けに書かれた『未来免疫学』『免疫革命』『こうすれば病気は治る』などの著書多数。新潟大学大学院免疫学・医動物学分野教授。2016年逝去。日本自律神経病研究会終身名誉理事長。

※インタビューは当時のものです。