Feature #16

変容の旅

 コロナで私たちの世界は一変した。果たして、未来の人々は、世界の構造的変化の始まりの年として、2020年を振り返るようになるのだろうか。
万物は常に、変容を遂げている。四季の移り変わり、子供の成長、雛が卵から孵る、サナギが蝶に変態するなど、日常の至るところで変化を目にするから、「変わらないものなど何もない」という真理は、頭の片隅には入っている。
 だが、ひとたびそこに心が関わるようになると、私たちは「変わること」に対して、抵抗をおぼえてしまうことも多い。なぜって、未知のものは不安だし、不確かだし、保証も何もないし、お気に入りの使い古した毛布の方が断然、安全で安心だからだ。
一方で、未知の世界に積極的に挑む人もいる。毛布を新調することのワクワク感や新鮮さに味をしめている場合もあるだろうし、内側に突き上がる衝動に駆られて、という場合もあるだろう。
 今回は、そんな変容の旅を導いてくれる古書の名作の数々をご紹介したい。

 『自己変容の炎ー愛、癒し、覚醒』は、変容と癒しについて、心理学、哲学、宗教、霊性の観点から幅広く見渡している。著者は、医学部に学んだ細胞学者であったが、瞑想との出会いをきっかけとして、心身医学、臨床心理学に転身し、心身ともに癒し、回復や立ち直りをサポートする、「マインド/ボディ・クリニック」というプログラムを主宰してきた。
 その癒しの技法は、祈り、瞑想、サイコセラピー、前世療法、先住民やシャーマンの儀式、LSDなど、伝統宗教や先住民の文化、東洋の哲学と現代科学を融合する、視野の広いものだ。本書の中に紹介される、心惹かれる技法や療法をより詳しく探求するという読み方も良いかもしれない。
 この本の魅力の一つは、十歳で強度の恐怖という精神異常を経験したという著者の等身大の人間性が透けて見える、親しみやすさ。実体験もふんだんに織り込まれ、文章も読みやすい。
なぜ悪いことが起きるかについての私たちの信念や、恐怖についての考察も興味深い。また、巻末では実際的な戦略が提案されており、自分を慈しむ行為が日常生活の中で気軽に実践できそうだ。

 先住民やシャーマンの英知に心惹かれるという方にお勧めなのが、『ジェニーとの旅』。著者が大学院の公開セミナーを受講した際、アラスカでシャーマンとして人々の治療をしている女性と友人になったのをきっかけに、夢の中に現れたジェニーという女性と運命的な出会いを果たし、『奇跡のコース』という本で奇跡学を共に学んだ二人がフィリピンで心霊療法を学ぶまでの旅が描かれている。

 著者は、なぜ自分がシャーマンに出会ったり、フィリピンへ旅した経験をしなければならなかったかを「小さな信念に凝り固まったエゴを解きほぐすため」だったと説明している。ただ、皆が特別な師や体験が必要なわけではない。「旅の途上で出会った人々の中には、自然に自分の目的に沿って生きている人たちも大勢いました。彼らは謙虚なのです。謙虚だから、真実に、たやすく、すばやく向かっていくのです」。
 二人が旅をしたのは、1970年代後半の話だが、無意識に運命に身を任せるという生き方から、運命をコントロールし、人生を自らの手で切り開き、創造して行くことを志す人にとって、目的と奇跡に満ちた二人の人生の歩み方は、時代にかかわらず、参考になるだろう。

『 魔女の夢:運命を超えて生きる力』も、民間信仰やシャーマンについて知ることのできる本だ。
 著者は、カルロス・カスタネダと同じくドン・ファン・マトゥスを師に持つ。両者とも人類学者だと言う点も共通しているが、違いは著者が女性だと言うこと。女性ならではの細やかな視点から、豊かな表現で描かれる本書は、一見すると、フィクションのように思えるかもしれない。
 治療師の実態についての人類学的な調査を行うべく、ベネズエラを訪れた著者は、様々な巡り合わせから、「魔女」メルセデスというシャーマンに弟子入りをすることとなる。ベネズエラに向かう旅の前、著者は彼女の隠れた才能を見抜いていた女性から、「一人で暗闇の中で危険と直面している時には、戦士の道を進むしかない」と諭される。その時は合点がいかなかった著者だったが、メルセデスの助手として治療を手伝う日々を通じ、「戦士の道」の深い智恵を学びとることとなった。
 治療を受けに来た人々の様々なストーリーや著者の体験が描かれるドキュメンタリーは、学問としてのフィールドワークという枠組みを遥かに超えたもので、異世界の変容の旅が濃密にたっぷりと味わえる。

 人が変容を遂げる時、顕在意識上だけではなく、潜在意識や無意識の領域からの変化が起きている。私たちが日常生活で潜在意識にアクセスすることができる手段の一つが、夢だろう。
潜在意識と顕在意識という二つの世界を橋渡しするのが、夢を見ていることをはっきり意識する状態である「明晰夢」。明晰夢では、夢を見ていることに気づいているため、自分の意思で行動したり、夢をコントロールしたりできる。
 『夢の劇場ー明晰夢の世界』は、明晰夢を脳科学、シャーマンの実技、チベットのタントラやスーフィやヒンドゥ教の瞑想法などから、夢を作り上げているもの自体を解き明かす。

 本書によると、明晰夢を見る主な目的は、シャーマンの力を得ることではなく、神秘家たちが幻影や夢の世界と呼ぶものからの「覚醒」なのだと言う。宇宙の捉え方が最新科学によっていかに変わろうと、それは現実と非現実についての考え方が新しく加わったに過ぎない。考えや言葉、レッテルに実質を与えている私たちが、それらが実存的な現実ではないことを思い出すことが、明晰夢を見ることの目標である、と言うのだ。
 そのため、本書は通常の夢の訓練の本よりも、瞑想に重点を置くものが紹介されている。夢を操作することで、はけ口の無い多大なエネルギーが解放されることが多いこと、そして瞑想によって心に平安さを作り出すことができるためだ。

 古今東西の明晰夢についての幅広い解釈や技法を知ることができる本書のもう一つの特徴は、明晰夢についての絵画や芸術作品のイメージがたっぷりと盛り込まれている点だ。
 400ページを超えるハードカバーで、少々重量はあるのだが、寝る前にパラパラとページをめくるという読み方でも楽しめる。筆者は実際、本書を就寝前に読んだことで、記憶にある限り、人生初の明晰夢を見ることができた。それはとても解放的でワクワクするような体験だった。

 彼岸と此岸の間の距離が最も近いのが、生まれて間もない子どもたちだろう。夢や退行催眠、幻覚を引き起こすような植物などがなくとも、前世の記憶を保っている子供たちは、私たちが認識する以上に存在する。
 『子どもはみな前世を語る』は、二人の我が子が語り出した前世体験を理解したいという思いから、輪廻転生の研究分野に足を踏み入れた著者が十数年に渡る「子どもたちの前世研究」の成果を実例たっぷりに解き明かす。
 ある年の夏、花火の炸裂音を聞いて、突然火がついたように泣き出し、怯え切った我が子。彼を癒した前世療法を目の当たりにした著者が、我が子の前世体験の探求と並行して、前世研究の文献を読み漁るようになり、アメリカの人気トーク番組である「オプラ・ショー」への出演や、講演活動を行うまでとなる過程は、一気に先を読み進めたいという衝動に駆られる魅力を備えている。

 著者によると、子どもが前世の記憶を語ると、その影響は波紋のように広がり、いくつもの人生を変えてしまうパワーがあるという。前世の記憶を語るという行為によって、子どもは直接癒され、変化を遂げ、その子どもを取り巻く大人たちは深く刻まれた信念を根底から覆すようなパワフルな真実の前に、新しい理解が生まれるというのだ。興味深い実例だけでなく、しっかりとした研究や調査に裏打ちされている本書は、著者が意図した「我が子が前世を語り出した時の対処法の指針」となるだけでなく、自らの意識の成長にとっても参考になるものだ。

 私たちの旅は、どんなに時空を超越しようとも、異なる次元に行こうとも、「一なる場」である宇宙の外に出ることはできない。そもそも、宇宙とは「外」など存在しない、気が遠くなるような広大さと多様性を含んでいるのだ。しかし、そのすべてを包み込む世界全体に想いを馳せ、理解し、経験することができるのが、人の意識だ。

 『COSMOS コスモス』は、様々な科学実験や研究を紹介し、宇宙の万物が時空やエネルギーと物質の枠を越え、他のすべてのものと深くつながり合っていることを詳しく案内している。
 人間もこの「全一世界」の一部であり、創造されるものであると同時に、共に創造していくものである。その人間が環境や他の種を脅かしている今の時代だからこそ、本書で述べられているように、「人類の使命はコスモスの進化を促すこと」をとりわけ心に刻んで生きるべきだろう。
 というのも、人間は他のどの種よりも意識の力を強く引き出すことができ、意識的に互いや地上のすべての生命、世界の方向を定めたり力を与えたりできるからだ。そのため、人は「自分たちと世界をこれまで達成されたことのない状態にまで進化させられる」と本書は説く。
 著者の一人、ラズロ博士は、世界賢人会議「ブダペストクラブ」の会長で、日本の『地球交響曲第5番』にも出演している。もう一人のカリヴァン博士はヒーラーであり、量子物理学者および考古学博士。宇宙論が科学とスピリチュアルの双方のからわかりやすく紐解かれた本書は、長く手元に置いておきたいものとなるだろう。

 『宇宙はグリーンドラゴンービッグバンは地球に何をたくしたか』も、宇宙という壮大な物語をめぐる旅ができる。宇宙の起源に思いを馳せる冒頭から、引力、つまり普遍的に存在する基本的な結合エネルギーの本質が「愛」であるというくだりを経て、人間を生み出す海、大地、生物、火、風という五つの宇宙の力についての説明まで、現代科学が明らかにしてきた事実をもとにしつつ、宇宙の新しい世界観を私たちに提示する。
 題名の「グリーンドラゴン」という突飛な言葉は、唯一無二の宇宙が言葉で言い表すことはできないということ、そして科学的探究によって、宇宙に対するこれまでの理解や知識が根本から覆されつつあるという驚きが込められている。
 著者の師を表す「トーマス」と、私たち人間の未熟さと新しい種を表す「若者」という二者の対話形式で書かれている本書は、読み進めるうちに浮かんでくる素朴な疑問は「若者」が代弁してくれるため、非常に読みやすく、文体も美しい。
 「どの人間も地球全体の変革に参加する力がある」と著者は言う。
 宇宙の創造の炎から生まれ出た私たちは、私たちの内側に無限に広がる意識の変容の旅を通じて、この宇宙の物語を共に創造する力を持っているのだ。

 さて、古い毛布を手放す準備ができたら、あなたはどのような旅に出ますか?


【used】自己変容の炎
愛、癒し、覚醒
ジョーン・ポリセンコ
春秋社
2900円+税

【used】ジェニーとの旅
ブルース・デイヴィス
青山出版社
1300円+税

【used】魔女の夢
運命を超えて生きる力
フロリンダ・ドナー
日本教文社
6500円+税

【used】夢の劇場ー明晰夢の世界
マルコム・ゴドウィン
青土社
5940円+税

【used】子どもはみな前世を語る
キャロル・ボーマン
PHP研究所
1900円+税

【used】CosMos コスモス
アーヴィン・ラズロ、ジュード・カリヴァン
講談社
1360円+税

【used】宇宙はグリーンドラゴン
ビッグバンは地球に何をたくしたか
ブライアン・スウィム
TBSブリタニカ
900円+税