Feature #18

心の終活

秋分過ぎから段々と日の長さが短くなっていき、冬至を経て再び日照時間が伸びてくる。
そのため、古くから冬至は太陽の死と再生を象徴する大切な節目だった。
人々の意識が自らの内側へと向かっていくこの内省的な季節に、
読書を通じて、死と再生に向けた心の準備をしてみてはいかがだろうか。


 誰にでも死は訪れるもの。ほとんどの人にとって、そんなことはもちろん頭ではわかっているものの、心の準備となると、また別な話。いざとなった時、プエブロ族の古老のように「今日は死ぬのに持って来いの日だ」と心から言えるには、脳内シミュレーションが助けとなるだろう。今回は、死について様々な角度から見つめられる書籍を紹介しよう。

 『ダライ・ラマ 死と向き合う智慧』によると、死、つまり「無常」について考えることで、表面的で一時的な願望に押し流されることなく、生の大切さや命の貴重さをより深く認識することができ、より良く生きることができる。

 本書でダライ・ラマ法王は、「パンチェン・ラマ1世の十七偈」について、インドやチベットの経典や口伝で継承されてきた教えを引き合いに出しながら、分かりやすく解説している。十七偈とは、死の恐れを乗り越え、死のプロセスによって更に高い境地へ到達するために説かれた手引書で、17世紀に書かれたもの。

 法王の語り口は丁寧で慈愛にあふれ、自らの死の迎え方だけでなく、死にゆく人を送る際の心持ちや振る舞いについても語られており、安心して死に向き合う指針となるだろう。各章はそれぞれの教えを要約した助言で結ばれており、シンプルながら深遠な教えがすんなりと染み込んでいく。死のプロセスや中間世、来世への再生について具体的に説明された本書を読むと、死が何かの終わりではなく、永遠に続くプロセスの一つの過程に過ぎないという感覚が生まれるかもしれない。

 死後どのようなことが起きるのか、また生存中の修行が死にどのように関わるかという教えは、チベット仏教の奥義とされてきた。何年も修行を重ねなくとも、このような奥義が一般人にも容易に入手できる時代だからこそ、その教えを真摯に受け止めたいものだ。

 「死を意識し、価値あることが何かを見極めるのは、早ければ早いほどいい」と法王が言うように、今日から始めたとしても、決して遅くない。死を肉体上のものだけでなく、意識の面から捉えた時、死は終わりではなく、新たな旅の始まりとなる。

 『死後も生きる<意識>』は、科学と霊性がバランスよくミックスされており、死という現象についての理解が頭でも心でも深まるだろう。

 本書は、神経精神医学者とその妻である著者が緩和ケアに携わる医療従事者やホスピスなどの現場スタッフを対象に行った聞き取り調査と、様々な個人から寄せられた死にまつわる体験談で構成されている。著者が実施した、蘇生手術を受けた人への臨死体験の研究調査に、人々のエピソードがふんだんに織り交ぜられており、最後まで読者を飽きさせない。

 死に至るまでに経験する心理段階について述べた『死ぬ瞬間』で国際的に有名になったエリザベス・キューブラー・ロス博士による続編、『死、それは成長の最終段階ー続・死ぬ瞬間』は、タイトルにもある通り、死を成長の一つのプロセスと捉えている。本書は、成長すなわち「本当の自分となる」と同時に「より人間的になること」と死をどのようにつなげることができるか、という観点で編まれた。

 ロス博士が本書のために集めた死についての様々な見解は、生と死の意味を探求する者にとってのヒントとなるだろう。

 死ぬことに抵抗をおぼえたり、向き合う勇気が持てない理由の一つは、「今、ここ」に意識を完全に注ぐことなく、生を十分に生きていないからだろう。

 『死について41の答え』は、OSHOの多数の著作の中から、死についてのものを選りすぐって編まれたもの。死について、これまでに固定されたイメージや既成概念を崩し、深い洞察を与えてくれる。

 軽快ながらも愛のあるOSHOの数々の言葉は、時季を変えて読むごとに、新たな発見と気づきを与えてくれるだろう。死を準備するためのさまざまな瞑想の方法も載っており、実践的。全編にちりばめられた真に生きるための叡智や、誰もが抱くような疑問に対しての答えは、何度も繰り返し読みたい。死にゆく人を看取る際の洞察も詳しく書かれており、非常に参考になる。

 死について学べば学ぶほど、「死は存在しない」ということが概念としてだけでなく、心身ともに腑に落ちていく。

 『死で終わるいのちは無い: 死者と生者の交差点に立って』 は、真言宗の僧侶であり、心理カウンセラーでもある著者が恐山、伏見稲荷、モンゴル草原と舞台を移しながら、いのちと死について向かい合う軌跡が語られる。その姿勢は真摯ながら重苦しくはなく、著者の等身大の言葉で綴られた文章を読むと、生と死の連鎖がすんなりと受け入れられる。本書によると、著者が所属している宗派には、「いま、いのちがあなたを生きている」という標語があるそうだ。この本の不思議な魅力の一つは、著者がこの標語を体現して生きていることにあるのかもしれない。

 『マー・ガンガーー死ぬのはこわいだろうか』は、著者のガンジス河への旅が美しい写真と詩で綴られている。生と死を優しく包みこむ母なるガンジス河の悠久なる流れの気配が全編から立ち上ってくるようだ。我が子を喪った著者の思いが静かに沁み渡る。

 ところで、公の場でも、死をタブー視するのではなく、オープンに死を語るという取り組みが行われている。

 『生と死の教育』の著者は、「デス・エデュケーション」つまり「死への準備教育」に長年取り組んできたパイオニア的存在。本書はその具体的な取り組みについて、分かりやすく解説したもの。著者によると、死への準備教育は、一つの哲学的な論説やある特定の宗教観に基づく死の解釈を教えるのではなく、受講者が様々な死生観を自由に考察し、自身の死の意義を探究する素地を作るためだという。死の意義を探求することは、より良い生きがいを探すことでもあるからだ。自分だけでなく、他の人々と共に探求したり、家庭や教育の場で死について考え語らう際に手引きとなる一冊。

 いかがだろうか。アプローチは様々だが、何となく気になる一冊があったとしたら、それに今のあなたの心の終活に必要なヒントが載っていることだろう。


ダライ・ラマ 死と向き合う智慧
ダライ・ラマ14世テンジン・ギャツォ
地湧社
2640円(税込)

死後も生きる<意識>
ここではないどこかへの旅
ピーター・フェンウィック、エリザベス・フェンウィック
創元社
2420円(税込)

死、それは成長の最終段階
続・死ぬ瞬間
エリザベス・キューブラー・ロス
中央公論新社
880円(税込)

死で終わるいのちは無い
死者と生者の交差点に立って

三橋 尚伸
ぷねうま舎
2200円(税込)

マー・ガンガー
死ぬのはこわいだろうか
宮内貴美子 著、沖鳳亨 / 若林裕子 写真
めるくまーる
1980円(税込)

死について41の答え
OSHO
めるくまーる
2640円(税込)

【used】生と死の教育
アルフォンス・デーケン
岩波書店
990円(税込)