vol.0740

2021年5月満月のたより

初夏のさわやかコミックまつり

Photo by Teodor Drobota on Unsplash

– 初夏のさわやかコミックまつり –

毒気を抜かれる瞬間というのがあります。

先日混雑した電車を降りる際、
人に押されて別の人にぶつかってしまったのですが、
その人に謝ったところ、
マスク越しに
「大丈夫」と言わんばかりの、
とびきりのほほ笑みを返してくれました。

その笑顔を見た瞬間に、
人ごみの息苦しさや、押されたことによる不快感が、
帳消しになったように感じられたのでした。

笑顔の力ってすごいものですね。

そんなわけで今回は、
初夏にふさわしく、
肩の力を抜いて楽しめ、さわやかな読後感をもたらす、
コミック作品のご紹介です。

あなたが、笑うことによって癒され、
あなたが笑うことによって、誰かを癒していることに
お気付きになることを願っています。


僕 時々
思うことがあって

僕は男なんですけど
他のどの男性とも違う僕で

丸山さんは女性ですけど
きっと
他のどの女性とも違う丸山さんで

そういうカテゴリーに入れた途端に
はみ出すものがあると思うんです
だって個人は一人一人違って
みんなバラバラだから

男や女である前に
その人だから

– はるな檸檬 –
『ダルちゃん 1』より

ITEM

[Life/人生・生き方]

逢沢りく 上、下巻
ほしよりこ / 文藝春秋 / 各660円(税込)

洗練された東京の家庭で育った14歳の美少女、逢沢りくは、深く人と心を通じ合わせることなく、鎧のように心を固めていた。そんなりくが、苦手であった、人間味あふれる関西の親戚の家庭で過ごすこととなり、その温かい環境の中で、少しずつ心に変化が起こっていく。その変化は、読者の心も優しく癒してくれるだろう。文庫版。

[Art/マンガ]

COJI – COJI 新装再編版 全3巻
さくらももこ / 集英社 / 各660円(税込)

年齢も性別も不明な謎の生き物コジコジと、メルヘンの国の仲間たちで繰り広げられる毎日は、可愛らしくもシュールな笑いに満ちている。しかし純粋無垢でなんの役に立つこともなく、ただ自然に楽しく生きるコジコジのあり方は、これまで数多の賢者が追い求めた、宇宙の真理に通ずるものではなかったか? 随所でハッとさせられる。

[Art/マンガ]

町田くんの世界 全7巻
安藤ゆき / 集英社 / 各484円(税込)

メガネで真面目だが成績は中の下。運動は不得意で要領も悪い。だが、人の美点を見出す才能に溢れ、一見わがままだったり、厄介に見える行動の向こう側にある善意や孤独を敏感に感じ取る。そんな主人公が周囲の人と結ぶ関係性は、のびやかでみずみずしく、私たちの内にある善良=弱点のような感覚を払拭してくれそうだ。

[Life/人生・生き方]

ダルちゃん 1、2巻
はるな檸檬 / 小学館 / 各935円(税込)

ダルダル星人という真の姿を隠し、“普通”の24歳女性に“擬態”することで、何とか社会に紛れ込んでいるダルちゃん。しかし誰かに合わせて生きていると、心が擦り切れるように感じられて……。そんな主人公が、どこにも存在しない“普通”を追いかけるのを止め、自分の内面を模索しながら自身の言葉を獲得していく様は、痛ましくも美しい。

[Art/マンガ]

黄色い本
ジャック・チボーという名の友人
高野文子 / 講談社 / 880円(税込)

削ぎ落された線と自在に変化する視点、文学的な作風で、長きにわたり強い存在感を示し続けるマンガ家、高野文子。本作でも、卒業を控えた女子高生が、図書室で出会った黄色い本の世界に魅了され、没入していく様子を独特の筆致で描く。子ども時代の終わりの切なさと、未来への不安や希望、友情や家族愛など、驚くほど多くの要素が短い物語の中に凝縮され、あの頃の新芽のような柔らかな感覚を思い起こさせる

[Society/農業]

銀の匙 Silver Spoon 全15巻
荒川弘  / 小学館 / 各499円(税込)

受験戦争から逃れた主人公が入学した、北海道の農業高校に集う個性豊かな面々と、そこで巻き起こる珍事の数々。大自然の厳しさと豊かさ、家畜との交流やそれを食べるということ、現代農業の深刻な問題等、決して軽いエピソードばかりではないが、登場人物たちの課題への向き合い方や、それぞれの打開策が痛快だ。
※同名小説とは別物のコミック作品。

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