vol.781

2023年2月満月のたより

量子論とシャマニズムのコスモロジー
2023年2月の満月のたより

量子論とシャマニズムのコスモロジー

2022年のノーベル物理学賞を受賞した「量子もつれ」に関わる分野でもある量子論は、これまでの常識が通用しない摩訶不思議な物理学であり、半導体にも活用されるなど、デジタル社会に暮らす私たちの生活にも関わる最先端物理学。そして、目に見えない世界と人間との媒介者であるシャマンによって成り立つ神秘的なシャマニズムの世界。今回のメールマガジンでは、この二つをテーマにしたブッククラブ回でのイベント「シャマナ」でお話しいただくシャマニズム研究者サランゴワさんのおすすめの本をご紹介します。

最先端物理学と東洋の覚者たちが直感で得てきたであろう東洋思想の類似性は、これまでもフリチョフ・カプラをはじめとする科学者やユングといった心理学者たちによって指摘されてきました。そして東洋思想の視点を物理学の世界に取り入れるという試みは、現在も第一線で活躍する量子物理学者によって提唱されています。様々な解釈が提示され、白熱した議論が展開される量子力学の現在進行系の姿と、実際に今も現存するシャマンの世界を知ることのできるセレクションです。どうぞお楽しみください。


わたしとその文献との出合いは、決して偶然ではなかった。量子とその関係論的な性質について話していると、よく「ナーガールジュナ(龍樹)は読んでみた?」と尋ねられたのだ。もう何度尋ねられたかもわからなくなったわたしは、ある日、だったら一歩踏み出して、ナーガールジュナを読もうじゃないか、と心に決めた。西洋ではあまり知られていないが、ナーガールジュナの著作は決して無名でも二流でもない。仏教哲学の基礎となるもっとも重要な仏典の一つであって、わたしがその文献に気づかなかったのは、ひとえに(西洋人にはよくあることだが)アジアの思想家について無知だったからだ。

– カルロ・ロヴェッリ - 『世界は「関係」でできている』より


ITEM
Science / 物理

世界は「関係」でできている
美しくも過激な量子論

カルロ・ロヴェッリ / NHK出版

2200円(税込)

相容れないとされる一般相対性理論と量子力学を統合しようとする理論、「量子重力理論」の一説を唱える著者。スティーヴン・ホーキングの再来といわれるこの物理学者によると、今までの常識に囚われた考え方を捨て、新たな考えを取り入れると謎だらけの量子論も説明がつくという。それはこの世界は物質や事物でできているのではなく、関係性や相互作用によってできているというもの。後半では、量子論の謎を説く鍵として大乗仏教の龍樹の「空」の思想が登場し、意識や心とは一体何なのか? といったことについて思弁的に語る、エキサイティングな一冊。


Science / 物理

量子力学の多世界解釈
なぜあなたは無数に存在するのか

和田純夫 / 講談社

1100円(税込)

「あなたがこの文章を読んでいるとき、同時に熟睡しているあなたも存在している。」こんなSFのような話が物理学者たちの間では、真剣に議論されている。さらに、世界は無数に枝分かれしていて、あなたという人もそれぞれの世界に無数に存在しているという。諸説ある量子論の一つである「多世界解釈」が、なぜ筋の通った自然な考え方なのか? 「量子もつれ」「遅延選択」「量子消しゴム」「Qビズム」などの新たなテーマにも明快に答えがでるという、多世界解釈が導く驚きの世界像を平易なロジックの積み重ねで説明する。


Science / 物理

東京大学の先生伝授
文系のためのめっちゃやさしい量子論 

松尾泰 監修 / ニュートンプレス

1650円(税込)

全ての物質は細かく分割していくと、素粒子というとても小さな要素になるが、この素粒子が主役となる世界では、常識がくつがえされる不思議なことが起きている。たとえば素粒子の一つである電子は、まるで忍者のようにあちこちに“分身”して存在していることがわかっている。ミクロな世界を支配する物理理論である量子論は、現代物理学の土台ともなっており、量子論の発展なくして、現代のさまざまなテクノロジーはなかった。生徒と先生の対話とイラストを交え、量子論をやさしく解説する。


Science / 物理

量子は、不確定性原理のゆりかごで、宇宙の夢をみる

佐治晴夫 / トランスビュー

1760円(税込)

予備知識の無い者にとって、物理の数式は理解が難しいうえに、原子や電子の姿は小さく、目で見ることができない。しかし私たちは自らの感覚を通して、物理の世界の存在を実はすでに知っている。宇宙物理学者である佐治博士が本書で目指したのは、宇宙の始まりや姿を理解する上で欠かせない量子論の基礎、そして不確定性原理が感覚的に理解できること。一線を退いた後、パイプオルガンを弾き始めたという博士の紡ぐ言葉は、極めてソリッドなはずの数字の世界をとても瑞々しく描き出す。音楽や文学、詩の世界からわかりやすく例をひきながら、不確定性原理が示す小さな世界のゆらぎが、広大な宇宙に及ぶ豊かさに満ちていること、人間もまたその一部であることを教えてくれる。


Science / 宇宙

投影された宇宙
ホログラフィック・ユニヴァースへの招待

マイケル・タルボット / 春秋社

3080円(税込)

「部分」は「全体」の情報を宿しながらも、次元を変えることによって現実は全く違う様相を世界に投影する。木漏れ日、机、私たちの手、世界の全てはあるプロセスを経た結果の一つなのだ。量子力学をはじめとする先端物理学から導かれた「ホログラフィック理論」を提唱した著者。東洋思想にも通じる科学からの柔軟なアプローチで、分断化された価値観をもう一度統合し、新しい宇宙を創造していくために。ニューサイエンスの基本図書ともいえる本。


Science / 宇宙

タオ自然学
現代物理学の先端から「東洋の世紀」がはじまる

フリッチョフ・カプラ / 工作舎

2420円(税込)

人類の文化が段々発達をしていく中で生み出された科学技術。人間が環境や自然を支配し、万能になるために発達していった科学が行き着いた先はどこだったのだろう? 量子物理学や相対性理論で発見されたことは、明確にはとらえがたい不確実性やパラドックスに満ち満ちている現実の姿であったとは、皮肉と言おうか滑稽と言おうか面白い。そして、その現実のいわくとらえがたい曖昧さという本質は、とっくの昔、二千年前に東洋の神秘家たちは気がついていたのである。その発見に大いにインスパイアされた物理学者の著者は、それまで水と油のように相容れないと考えられていた科学と神秘主義を見事に結びつけている。「語ることのできる道は道ではない」と述べるタオと、不確実性に満ち満ちている量子物理学を関連させたことにより、科学的な読み物とは思わせないほどの興奮を、私たちにもたらしてくれる本書。執筆後、約半世紀を経た今でも知的好奇心を刺激し続けるクオリティは色あせない。現代では、焦点が、量子力学からカオス理論、そして複雑系へと移ってきている。ビジネスの世界でも複雑系が真剣に取り上げられているそうである。


Science / 宇宙

叡知の海・宇宙
物質・生命・意識の統合理論をもとめて

アーヴィン・ラズロ / 日本教文社

1780円(税込)

ミクロの量子の世界からマクロな宇宙まで、生物も無生物も含めた、万物が示唆する驚くべき一貫性。これまでに起こった全てを永遠に記録する情報体としての宇宙、Aフィールドに言及し、科学的知見を土台にホログラフィック宇宙仮説や、量子真空(ゼロ・ポイント・フィールド)の理論を検討する。人間の意識は、体が死に至ると消滅するのか? 宇宙意識というものが存在するのか? 宇宙・生命・意識のつながりを語り、包括的な万物の理論を提示する。


Life / 死

死は存在しない
最先端量子科学が示す新たな仮説

田坂広志 / 光文社

1012円(税込)

死んだら人はどうなるのか? これまで多くの哲学者や宗教家がこの問いにさまざまな考えや世界観を表してきた。著者は、最先端量子科学は死後の世界の可能性を示唆しており、それはゼロ・ポイント・フィールド仮説というもので説明できると述べ、人生で起こる直観やシンクロニシティ、コンステレーションといった不思議な出来事も、この仮説で説明できると説く。原子力工学を専門とする科学者でもある著者が、科学の限界を伝えるくだりはわかりやすい。後半はトランスパーソナル心理学や仏教などを引用し、著者の死生観をゼロ・ポイント・フィールド仮説を用いて具体的イメージとして展開する。後半が推論の域を出ない点は、賛否両論あるだろうが、著者自身、肉親を亡くし深い悲しみや苦悩から死生観を得て「『光』を得た」とあるように、自分が心安らぐ、あるいは納得できる死生観を誰もが自ら考え選ぶことができる。その思索を深める参考になるのではないだろうか。


Spirit / シャーマニズム

ブォ・シャマニズムの現在
内モンゴル・ホルチン地方の新地平

薩仁高娃 サランゴワ / 牧歌舎

3520円(税込)

「シャマナ」の講師を務めるネイティブ人類学者、サランゴワが18年に及ぶフィールドワークに基づき、シャマニズムの伝統と現代の姿を明らかにする渾身作。いかにシャマンになるか。シャマンの力はどこから来ているか。シャマンが守護霊と交流する際の身体感覚、病の原因と治療法。内モンゴル東部のシャマニズムが現代の人々に対しどのような役割を果たしているのか、その具体像に迫る。


Spirit / シャーマニズム

【used】シャーマンへの道
「力」と「癒し」の入門書

マイケル・ハーナー / 平河出版社

3190円(税込)

連綿と受け継がれるシャーマニズムについて、民俗学、宗教学、心理学、社会学的視点をもって解説する。自ら非日常的リアリティを旅して、そこからメッセージを持ち帰るシャーマンとは? そして現代によみがえるネオ・シャーマニズムの機能とは?


Spirit / シャーマニズム

奄美三少年 ユタへの道

円聖修 著、福寛美 監修 / 南方新社

1650円(税込)

貴重な動植物の宝庫であり世界自然遺産でもある奄美は、シャーマニズムの世界がいまなお残り、「ユタ神」と呼ばれる民間霊能者が多く存在している。現在、ユタ神として活動する著者が、少年時代に経験した数々の不可思議な事象、友人たちとともに高い霊能力を発揮し、悩む人々の問題を解決していった冒険の日々、そして「神の道」へと目覚めていく過程の記録。


Spirit / シャーマニズム

シャーマニズム
「知の再発見」双書162

シャルル・ステパノフ、ティエリー・ザルコンヌ / 創元社

1760円(税込)

神仏や精霊などと交流・交信する能力を持つシャーマンとは何か。占い師であり、医師であり、人間世界と精霊が住む目に見えない世界の仲介者でもある彼・彼女らの実像に迫る。シャーマニズムに関する神話の世界から自然との関わり、儀式における所作や象徴、音楽について深く掘り起こす好著。さまざまな衣装に身を包んだシャーマンの様子を伝えるカラー写真やシャーマニズムの世界を活写した図版を多数掲載。中沢新一監修。


Spirit / シャーマニズム

シャマニズム 1(全2巻)

ウノ・ハルヴァ / 平凡社

3410円(税込)

小型ながら貴重な図版を110点収録した、箱入りの保存版書籍。19世紀から1930年代まで、北方ユーラシアの諸民族のシャマニズムに関する調査研究を網羅している。


Spirit / シャーマニズム

シャマニズム 2(全2巻)

ウノ・ハルヴァ / 平凡社

3300円(税込)

小型ながら貴重な図版を110点収録した、箱入りの保存版書籍。19世紀から1930年代まで、北方ユーラシアの諸民族のシャマニズムに関する調査研究を網羅している。


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