いのちと食
生き物は他の生き物を食べることで
いのちをつなぐことができる。
雑食動物である人間の生を支えてくれる
菌も、植物も、昆虫も、魚も、鳥も、ほ乳類も、
いのちがけで今を生きている。
風土に合った伝統食、信条や体質に合わせた多様な食文化、
価値観や生活環境によって食べるものは十人十色だが
いただくいのちは等しく、尊い。
今号では、「食べる」という営みから
生きることの原点を旅してみたい。
人生でもっとも辛いことは、
自分や家族の空腹を満たすために犠牲にした生きものすべての魂を
背負って生きていかねばならないことだ。
(イヌイットの言葉)
– C・W・ニコル - 『Venison うまいシカ肉が日本を救う』
ITEM
生き物を殺して食べる
ルイーズ・グレイ / 亜紀書房
2420円(税込)
“The Ethical Carnivore”(道徳的な肉食者)の原題通り、工業化された食肉産業の在り方につねづね疑問を持っていた著者が選択したのは、自ら屠った動物だけを食すること。その2年間にわたる体験を綴ったのが本書だが、環境ジャーナリストである著者ならではの着眼点や取材力により、単なる魚釣りや狩猟の記録だけに留まってはいない。養殖場や牧場、屠畜場、食品加工会社に足を運び、魚介類、豚、羊、牛、鶏などの動物がいかに食卓に上るようになるのかを取材し、解体や屠畜を学びながら、菜食主義や昆虫食、代替肉についても考察する。様々な現場での著者の実体験を通じ、食べるという営み、食を取り巻く社会問題について深く考えさせられる、読み応えのある書。
ニュー・ダイエット
食いしん坊の大冒険
ドミンゴ(近田耕一郎) / 木星社
2640円(税込)
ヴィーガン食品の製造を行う会社の代表が書いた著作は、きっとヴィーガンの良さを大いに語るのだろうというこちらの予想を覆し、肉食を全面的に否定せず、料理と肉食が「人類」をつくってきた250万年の歴史を紐解く。急拡大した食肉消費量と食肉産業のメカニズム、私たちの食卓と複雑に絡みあう貨幣と経済と社会の今とこれから、そして持続可能な食の可能性について語り尽くす。
野田サトル / 集英社
1~29巻 各594円(税込)
30~31巻 各693円(税込)
明治後期、日露戦争終結後の北海道で、帰還兵杉元が出会ったのは、アイヌの埋蔵金の噂とそれに深く関わる少女アシリパだった。脱獄囚たちの体に、刺青で刻まれたという埋蔵金の在処とは一体どこなのか? 丁寧に描かれる北海道の大自然と、そこに根付いたアイヌの文化や生きる知恵。作者は「狩猟」をテーマに作品の構想を練りはじめたそうだが、作中に登場するアイヌやマタギの狩猟や料理シーンは読みどころのひとつ。
禅と食
「生きる」を整える
枡野俊明 / 小学館
660円(税込)
禅の世界では、食事をつくること、食べることも大切な修行として捉えられている。「食」を通してつながるすべての縁に感謝する心の持ちようは、そのまま生きる姿勢として日常のなかに現れるのだという。食前食後の合掌、旬の食材や器選びの意味、ゴミの捨て方、食器洗い、生活のリズム、精進料理レシピなど、日々の食事から心豊かに丁寧に生きるための禅の教えと実践法を学ぶ。
神饌
神様の食事から“食の原点”を見つめる
南里空海 / 世界文化社
2640円(税込)
神社の祭りの際に献供される神様の食事「神饌(しんせん)」。神饌を神そのものとして扱う神職たちの真心と感謝の祈りがこもった膳からは、日本料理の原点が浮かび上がる。伊勢神宮をはじめ十八の御社に鎮座する神々をもてなす美しい食事を豊富なカラー写真とともに紹介。
ブリア-サヴァラン / 岩波書店
858円(税込)
断食や禁欲が、古代から受け継がれてきた一方、美味を追求する人も多くいる。究極的に美味しい食とは、人の理性、思考までも覆す力をもつのかもしれない。食こそ精神生活の根源であることを実証的に説いて、食の楽しみを罪とする禁欲主義から人々を解き放った人間哲学の書。
辺見庸 / KADOKAWA
792円(税込)
飽食の国、日本で暮らし、どこか歯車が狂ってしまった自分に苛立ち、異郷へと旅立った著者。バングラデシュの首都ダッカで残飯を食らい、チェルノブイリの村で放射能汚染されたスープをすする。飢餓、紛争、貧困にさらされた土地で生きる人々の現実を目のあたりにしながら、彼らと同じものを食べ続ける渾身のルポルタージュ。
地球の食卓
世界24か国の家族のごはん
ピーター・メンツェル、フェイス・ダルージオ / TOTO出版
3080円(税込)
世界24か国30家族の食卓を取材、1週間分の食材600食とともにポートレイトに収めた、現代の「食」の世界地図を描く壮大なプロジェクト。日々の食卓は、その土地に生きる人々の生活や価値観、経済状況をリアルに表している。食を通じて世界を感じる写真集。