SPECIAL INTERVIEW #07

祈りを奏でる

柿坂神酒之祐 / 大峯本宮 天河大辨財天社 第六十五代宮司

新年といえば、お寺の除夜の鐘で過ぎゆく年を締めくくり、初日の出を拝んで、神社に初詣へと出かける。こうした日本独自の精神文化は、太古の昔から人々の生活のなかに根づく自然崇拝と祖霊信仰に、八百万の神を祀る神道や仏教、道教、儒教などさまざまな信仰が融合し、育まれてきた。2004年に世界遺産として登録された吉野・大峯、熊野三山、高野山の三霊場は、大自然の精霊と神と仏が共存する巡礼地として知られているが、この聖域のほぼ中心に位置する奈良の秘境、天川村には、現代の感性と伝統を紡ぎあわせ、さらに進化した習合文化で注目を集める一大拠点がある。天地人の架け橋となり、前人未踏の「今」を切り拓きつづける神社界のパイオニア、大峯本宮 天河大辨財天社 第六十五代宮司 柿坂神酒之祐さんにお話を伺った。


天河大辨財天社

天河大辨財天社の歴史は、飛鳥時代に大峯山を開いた役行者が山中で修行中、辨財天(べんざいてん)を感得せられ、神社の南東にそびえる弥山(みせん)山頂に祀ったことに始まる。その後、天武天皇により現在地に社が創建された。社殿の下には岩盤から水が湧き出る「真名井」(まない)という巨大な磐座(いわくら)があり、弥山山頂には今も辨財天が鎮まる奥宮(弥山神社)を祀っている。また、3つの鈴を円でつなげた独自の神宝「五十鈴」(いすず)が伝わっており、天岩戸びらきの神話で天宇受売命が踊ったときに鳴らした神代鈴(じんだいすず)とおなじものだとされる。この3つの鈴は「生魂」(いくむすひ)「足魂(たるむすひ)」「玉留魂(たまつめむすひ)」という魂の進化にとって重要な3つの魂の状態を現している。


体験こそ力なり

「人間はどんなことでも体験を積まないとね。本当に多くの人と出逢い、一人ひとりに教わってまいりましたね」

これまで距離にして地球を2周半旅してきた経験をもつ柿坂宮司。御年82歳。なかでも一番強い体験だったと語るのは、20歳の頃、「人が歩いてないところを歩こう!」と、戦後の復興から高度経済成長期に入った日本を飛び出して、南米のコロンビアからチリまで歩いた旅だ。アマゾンの奥地に入って方位磁石を片手に歩きまわり、文明とまったく交流していない先住民に出逢ったという。森からいただく命を活かしきるその生き方に、本当のリサイクルと命を尊ぶことのひな形を学び、彼らの言葉と原始の自然が奏でる響きに、祝詞の原点である言霊(ことだま)の世界を見出す。言霊とは、言葉に不思議な霊力が宿るとする日本古来の思想のこと。実体験から醸し出される宮司の言霊は、力強い説得力で真っ直ぐに心に向かってくる。冗談を交えながらも、時折覗かせる気迫の込もった眼差しからも激動の人生が垣間見えてくるようだ。

「私ね、ちょっと変わっとったの(笑)。放蕩者だったんだな。若い時は、『こう在るべき、こう為すべき』と決めて、こり固まった考え方でしたが、歳を重ねて、だんだん心が変わってきましたね。

皆さんがここにお越しになることも、目に見えない力によって神様がご招待され、この出逢いができた。私は、番頭役をさしてもろうたという意識です。自分の思惑があったとしても、思惑なんていうのは小さいものです。すべては目に見えない世界のはたらきがあって、自然に動いていくものなんですね。

“役割”というのは命令の言葉だから“はたらき”と言ってます。役割でも使命でもなく、今、自分に与えられたはたらきを淡々と全うしとるとフトマニが生まれるんです。ふわっと上から降(くだ)ってくるフトマニを感じることが智恵でしょうな」

一般的に「太占(ふとまに)」とは、鹿の骨を焼いて、その割目の模様で吉凶を占う古代呪術を指すのだが、宮司が語るフトマニはいたってシンプルだ。例えば、無心に掃除をしている時に、ふと浮かんでくる気づきやアイディアもフトマニなのだという。神道の祓・禊にも通じる掃除は、心の鏡である身のまわりの場を清める行為である。目に見える埃をはらうことで、目に見えない心のなかの風通しも良くなっていくのかもしれない。

祈るこころ

世界各地の宗教家、思想家、ヒーラー、シャーマンと対話を重ね、「祈りとは何か?」「神職とは何か?」を探求してきた宮司だけに、祈りへの想いは熱い。

「神主が奏上する大祓(おおはらえ)という祝詞や仏教の般若心経には、人間の慢心と甘えが一番の罪だとあります。慢心するから人を諌(いさ)めたり、自分のなかに甘えが生まれるんです。自分を掘り下げて瞑想し、慢心と甘えを消していけば、風や木とおなじように自然体になっていきます。

はじめは時間がかかります。しかし、ずっと続けていくと、どんな花でもサッと除けて踏まないように歩く気持ちになってきますし、一本の木を伐るにも、この木を伐って良いのか悪いのか、木と問答するの。『宮司、なんでそんなに考えるの?』『いやぁ……ちょっと待ってや、ちょっと待って……』と言って、3日くらいかかるときもある(笑)。
私の日々の生活は土方をしとるような姿です。ときどき長靴を履いて、箒で掃除をするのが、もう一番楽しい(笑)。掃除のなかに情もあれば希望もあるし、何でもあるんですよね。ヨガにしても気功にしても、それだけが特別ということではなく、日常生活そのままが瞑想になります。だから天河の神主は、田んぼや畑、山仕事、掃除、祝詞、大工まで何でもできる(笑)。狩衣(かりぎぬ)を着て、祝詞を上げるだけで、祈れるかいな。真っ黒になって働きながら祈るのが神主だと思うね。
神主が、大麻(おおぬさ)で左・右・左(さ・ゆ・さ)とお祓いするでしょう。よその神社へ行っても『お祓いで何しとんの?』『お祓いした穢れはどこへ行くの?』『自分の所だけキレイになって、他へやるのと一緒じゃないの?』と、意地悪だから聞くんですわ。『うるさい奴がまた来た……』と、恐れられる暴れん坊ですね(笑)。
平和という言葉はすばらしいのですが、今は言葉だけが先に行ってしまってるように感じます。長年、宗教者を集めた国内外の会議に参加してきましたが、机の上で会議ばっかりやっておったって全然平和にならないしね。まずは生活のなかで自然体の自分を打ち立てていき、本来人間に備わっている精神性や宗教性、そしてお金という現実性が、忘己利他の精神で循環する世の中を築いていけば、自然と平和を祈れてくると思うんです」

忘己利他とは「己を忘れて、他を利するのは、慈悲の極みなり」という天台宗の開祖、最澄の言葉だ。人間の幸福だけを求めれば、他の生き物は住処(すみか)を失う。すべてがつながり合い、循環してゆくのが自然の理(ことわり)なのだ。アマゾンの森林保護や、無農薬野菜を全国流通させるためのネットワークづくりなど、昭和40年代からいち早く環境問題に取り組んできた宮司。今の世の中の動きをどう見ているのだろう?

「原爆が広島に落ちた後、湯川秀樹さんが涙ながらに親父と話していた姿が思い起こされます。人間は核に手を出し、インターネットからAIと、科学はどんどん進んでいきますよね。物事の本質や人間の本体は変わらないと確信していますが、『便利が良いもので、不便が悪いものである』というのは人間の都合であって、私自身はどちらが良いのか、今もどうしてもわからないですね。

日本は民主主義の国家です。49対51であれば、49%の幸福はこぼれ落ちて、51%の幸福が最大多数の最大幸福となりますが、我々の祝詞には、100%の国民が『これで良い!』と満足しないと、神様はそこに降(くだ)ってこないという精神が書かれています。では、100%が満足するにはどうしたら良いか? その答えは日本国の中心である天皇の祈りの心にあります。現実に天皇は1日8回の禊をして、資産も持たず、自然災害が起きれば自分の罪だと受けとって、すべての命が助かることを祈りつづけています。政治家は革新とか保守とか理屈の合わんことを理屈があるように言ってバリアを張っとるだけで、政治のイデオロギー闘争ではうまくいくはずがないです。武器を持って誇り、争うという……恥ずかしいことですわな」

弥栄の世に向かって

すべての命が健康で豊かに栄える弥栄(いやさか)の世を願い、日々、祝詞を奏上しつづける宮司に、今後の展望と自身の目標を伺ってみた。

「本当に正直な政治をやったら鬼に金棒です。金持ちもなく貧乏人もない、社会福祉も完全に100%、ごまかしのきかない透明な社会。そういう時代が100年先にやってくるだろうと思います。

ちょうど今日(2018年11月3日)、トロントで世界宗教者平和会議が開かれていて、天河神社国際部神司(かむつかさ)である龍村和子さんが浄土真宗の住職と、仏道と神道について話をしています。日本は神仏習合で他の文化を取り入れて順応させていきますが、この日本列島の大地のエネルギーはすごいなと思うんです。外国の人が日本に住めば日本人ですし、自然と一体になって互いの命を尊重していけるような、上も下もない平らに和した世界がひらいていくと思うな。将来が楽しみじゃないですか!

私ね、まだまだやりたいことがいっぱいあるから、141歳まで生きようという希望を持っとるの。100歳になって大恋愛したいな(笑)。まぁ、それはジョークだけど、古事記や般若心経にしても、究極は宇宙を論じた言霊です。各学者や宗教家が翻訳してますが、学問的に見ていく世界と、もっとそれを超えた世界で翻訳するのとでは、相当の違いがあると思うんですよね。古事記の本体である先代旧事本紀をわかりやすく本にしたいというのが、私の本来の仕事。今後もっと徹底的に研究して、書いていこうと思ってます」


柿坂神酒之祐   (かきさか・みきのすけ)

1937年、奈良県吉野郡天川村に七人兄弟の末っ子として生まれる。世界中を旅して、現地の人々の祈りの儀式などを体験で学ぶ。その後、さまざまな仕事を経験しながら、父が神主を務めていた天河神社で、掃除人として日々掃除に明け暮れる。1966年、大峯本宮 天河大辨財天社 第六十五代宮司に就任し、現在に至る。芸能の神とされる辨財天をお祀りしていることから、世界中から訪れる多くのアーティストに影響を与え続けている。過去にはトランスミュージックと共に護摩焚きをしたり、観世流宗家による能楽奉納やブライアン・イーノ、喜多郎、北島三郎、細野晴臣などジャンルを超えた多彩な音楽家による奉納演奏など、伝統や格式を重んじる神道界にあって、自由で独創的な御神事や祭りごとを執り行い、幅広い層の人々から支持を集める存在である。また柿坂家は、修験道開祖の役行者に仕えていた前鬼の末裔とされており、代々、天河では節分の日になると「福は内、鬼は内」と鬼を迎える行事を行っている。


天河大辨財天社
〒638-0321 奈良県吉野郡天川村坪内107
大峯本宮 天河大辨財天社 社務所
電話: 0747-63-0558 / 63-0334


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