『Interview Archive』は、『NewsLetter』『Spiritual Databook』に掲載されたインタビューです。
内容や役職などは2003年のものです。予めご理解のうえお楽しみください。

SPECIAL INTERVIEW ARCHIVE #15 2003

〈システム〉という解

ジェームズ・ラブロック / 科学者、環境保護主義者、未来学者

「生命(life)」や「生きている(living)」という言葉の定義を再検討する必要があるようです。

何者もひとりでは生きられない。
何物もそれだけでは存在しえない。
ある時は調和を保ち、またある時は残酷に破壊しながら、変化し続けるもの。
人間は、それを〈システム〉と名づけ、その動きを解読しようと試みた。
〈システム〉という解、それは人間と宇宙の問答のようなものかもしれない。
生命体としてのガイア=地球は、推定38億歳。
奇跡のように存在するこのシステムは、この先、どんな運命を選択するのだろうか?
ガイア理論の提唱者であるラブロック博士にお話を伺った。

 博士が「ガイア理論」を提唱して30年ほど経ちました。当初、科学者たちの中に、「地球は生きている」という表現に拒否反応を示す人もいたようですが、21世紀になってみると、地球をひとつの大きな生態系システムとみなす見方は、徐々に人々に浸透しつつあるようです。

 たしかにガイア理論が1972年に最初に発表されたとき、科学者たちはガイア理論に慎重な態度をとりました。今から思えば彼らは正しかった。理論があまりにも単純化されていることに私が気がついたのは、1981年に、最初のディジーワールド(※徐々に温度が上がっている太陽を回る軌道にあるとされるシミュレーション内の仮説的世界)の簡単なモデルができたときです。ガイア理論では生命が地球を調整することによって、生物が生きていくのに適した状態に保っているとしていました。しかし、ディジーワールドのモデルを通してわかったことは、整えているのは生命ではなく、生命、岩、空気、そして海が一つとなって動く、全体のシステムだということです。

 『Gaia地球は生きている』という本は、「惑星が医師の診察を受けたらどうなるか?」というユニークな視点で書かれています。地球は誕生以来、様々な変化を迎えながら、現在に至るわけですが、博士が考える「健康」「病気」は、どのような状態を指すのでしょうか?

健康と病気は相対的な関係にあります。私たちを含めて、何かが完全に健康であるという状態はほとんどないと言っていいでしょう。また、完全な病気であるという状態は、死ぬ時を示しています。地球についても同じことが言えます。地球は微惑星衝突の衝撃によって受けた傷がもとで、よく病気になってきました。しかし、100万年、またはそれに近い年月の単位で、回復し、健康を取り戻すというプロセスを繰り返してきました。また、進化するというプロセスにおいて起こる変化は、地球全体の状態を一時的に狂わせることが多いものです。たとえば、酸素が窒素などよりも増え、化学物質的に主要ガスとして出現した時などです。しかし、すぐに状態は前よりも良くなり、酸素の出現は地球に思春期をもたらしたかのようでした。

 現在の地球は、どのような健康状態だとお考えですか?

産業文明が始まる前からですが、地球は インフルエンザによって起こる発熱の状態にいるような感じだと思います。では、もっと健康的であった時がどのような状態を指すかと言えば、長い間、地球の気温が現在よりも数度低かった、氷河期です。何かが起こったとき、それが次に起こる現象に影響を及ぼすことをフィードバックと言いますが、それが同じ方向に作用するのが、ポジティブ・フィードバックです。つまり、一つの現象が、さらにその状態を加速させる現象につながっていくという意味です。現在、気温を調整するはずの地球の数々のシステムは、ポジティブ・フィードバックの状態にあります。地球温暖化の原因である二酸化炭素のようなグリーンハウスガスの増加や、自然生息地の破壊など、私たちがやっていることは、地球温暖化を加速させているのです。

 地球医学という見方をすることで、科学的探求とは違う現実的なアプローチが取れるという考え方は、とても興味深いと思いました。今、博士が地球医だったら、まずどんな治療を施しますか?

もし私が地球医であったとしたら、地球には、「長い休暇をとるように人間に頼みなさい」と言うでしょう。そんなに懸命に働かないように、そして、必要なエネルギーは持続可能な資源から取るように、と。

 博士の本では、人類を疫病と比較しています。人間は地球にとってどのような影響をもたらすとお考えですか?

私たち人間は地球の一部ですから、単純に疫病だというわけではありません。人間はたしかに地球にとって害をもたらすところがありますが、それはイボが大量発生したようなもので、地球にとっては、それ以上に深刻なものではないと思います。とはいえ、私たちがやっていることはやはり地球に害を与えており、健全な気候と資源環境を保持していく地球のパワーを阻害しています。地球は、そのような害から回復することができるでしょう。微惑星衝突の衝撃に比べれば小さなことです。むしろ、最も大きな害を被るのは私たち人間であり、文明をなくしてしまうことになるかもしれません。

 戦争やテロなどの社会的なトラブルについては、地球医ならどんな見立てが可能ですか?

知り合いの地球精神病医学者を紹介するでしょう。(笑)

 人間の中には、自然と共生するための野生的な感覚と、独立した「個」としての理性的な感覚が同時に存在しています。これは、地球全体にとって、どんな意味があるのでしょうか? またなぜ、そのように進化したのだと思いますか?

動物としての人間は、食物連鎖の最上位を占める捕食動物であり、光合成産物を循環し、二酸化炭素を空気中に戻し、その他の要素を地球の水圏に還元しています。私たち人間の数からいっても、地球システムのかなりの役割を占めています。先ほどの質問も含めて、これはガイア理論外のことで、知的な動物種としての人間についての質問ですね。E.O.ウィルソン(※昆虫学者、社会生物学と生物多様性の研究者)は賢くもこういうことを言っています。「地球に現れた最初の知的な種が、部族制をもった肉食動物であったのは大変に不幸なことであった」と。戦争が、そして、おそらく戦争行為の一手段であるテロ行為も含め、部族制動物の行為の一部であることを、私たちは、確固として心に入れておかなければなりません。

 人間が「自分の意志で何かをコントロールできる」と考えて行う行為は、短期的には効果を上げても、結果的に病気をもたらすことも多い気がします。地球の健康を維持するために、私たち一人ひとりができることは何でしょうか?

タバコを止めるには強い意志が必要です。そして、その結果は普通良いものです。そういう意味では、人間の意志でコントロールすることが必ずしも悪い結果をもたらすとは、私は考えません。進化という変容のプロセスは、たいていは個々の有機体から始まります。それは、突然変異による変化だったり、または、環境が変化した時にたまたま普通以上に適していたという理由で選択されたことによる進化です。私たちが自らの意思で変化をもたらすこともあるでしょう。そして、もし、私たちが今よりも地球とうまく生きていくことを選ぶのであれば、私たちにとっても、私たちの惑星にとっても良いことです。

 「生きている」という状態を、バクテリアや人間などの「生物」に限定せず、新しい視点でとらえたところが、博士のオリジナルな知見だと思います。たとえば、博士がコンピューターやネットワークなどを「生きている」という見方をした時、どのようなことが見えてきますか? 有機的、そして無機的システムの行動に、どのような類似点があるのでしょうか?

奥の深い、良い質問です。おそらく、「生命(life)」や「生きている(living)」という言葉の定義を再検討する必要があるようです。「生殖し、そして、その生殖に間違いがあれば、自然選択(淘汰)によって訂正することのできるもの」という、狭い生物学的な定義に限られない他の実体、例えば、地球のようなものも包括するべきでしょう。エントロピーが、生命の定義としての承認レベルよりも低いようなものでも全て含むようになればと思います。つまり、人間や動物の産物(シロアリの巣やペンなど)も生命の一部であるということです。コンピューターは人間の産物ですので、同じように生命の一部です。おそらく、コンピューターのプログラム間に、独立した生命形態が現れてくるでしょう。コンピューターウィルスやワームはすでに独立した生命への過程にあります。

 Gaiaにとって、テクノロジーの進歩には、どのような意味や目的があるとお考えですか?

テクノロジーの進歩によりもたらされるのは結果だけです。テクノロジーは地球にとって、無害にも有害にもなれます。テクノロジーを賢く使わない限り、テクノロジーを不適当に使ったために起きる収拾のつかない状態から逃れることはできません。私たちは太平洋を飛行中の環境保護論者の一団と同じです。グリーンハウス・ガスを大気中に流しているからといって、エンジンを止めるように飛行機のパイロットに頼むのは分別のあることとは言えないでしょう。

 変化のスピードが加速度的に増しているようです。これからの10年の間に地球はどうなっていくと予想されますか? 100年後は?

手短に言うと、10年後には気温が上がり暑くなるでしょう。100年後にはもっと暑くなります。信頼のおける団体である、Intergovermental Panel on Climate Changeは、2001年のレポートで、今世紀末までに1.5°Cから5.8°Cほど気温が上がると予想しています。その中間である3.2°Cをとったとしても、その違いは氷河期と西暦1900年の間の違いにほぼ相当します。

 天候の変化、環境の悪化、情報テクノロジーなどによってもたらされる地球全体の変容は、人間の意識にどんな変化をもたらすと思いますか?

地球温暖化による最初の深刻な大災害が起きるまでは、私たちは何の対策も行わないのではないかと疑っています。その時が来たらすでに手遅れで、私たちは文明を失い、石器時代の生活に戻ってしまう運命になるでしょう。そうなったとしても、またそこから再出発はできます。地球はとても強く、私たちが何を行おうとも生き残るということを忘れないでください。そして、動物としての私たち人間も同じです。文明とはなんとも壊れやすく、簡単に失われてしまうものなのでしょうか。

 Gaiaのシステムは、優しさと残酷さを合わせ持っているような気がします。人間がこのまま食糧を確保して人口を増やし続けることは、博士もおっしゃっているように限界が来ています。種としての目的が単なる「増殖する」ことから新たな目的へと変わる転換期を迎えているのかもしれません。もしそうならば、人間として次に持つべき目的は、具体的にどのようなものだと思いますか?

目的という意味では考えていません。私たちがここまで生きてこられて、地球をあるがままに見ることができるというだけで、驚くべき幸運ではないでしょうか? この惑星がなんと美しく例外的なものであるのか、私たちの目を通して、認識することができるのですから。

 地球を一つの生き物であるというアイデアを飛躍させると、さらに太陽系、銀河系、宇宙全体というレベルにまで到達するような気がします。そのようなことを考えたことはありますか?

  過去の賢明な科学者は、私たちが自己組織化する宇宙に住んでいることに気がつきました。エネルギーの変動があるときには常に、低いエントロピーのシステムと体系が発生する傾向にあります。宇宙はエネルギーを常に放散し、消費しているので、ある意味で、宇宙は生命が存在できる当然の環境にあるといえます。

 どうもありがとうございました。


ジェームズ・ラブロック(James Lovelock)
1919年イギリス生まれ。生態学者。
マンチェスター大学で学び、その後、ロンドンの医学研究所で働く。1948年、ロンドン衛星熱帯医学大学院で医学博士を取得し、アメリカのイェール大学、ベイラー医科大学、ハーバード大学で研究を行う。ロンドンの国立医学研究所専属研究員を20年間努め、 1974年、英国学士院会員に選出される。1994年から現在まで、オックスフォード大学グリーン・テンプルトンカレッジ名誉客員研究員。1986年から19990年まで、海洋生命学協会理事長を務めた。ハーバード大学客員研究員。米国パサデナでの月・惑星探査計画における生命科学顧問を務めた。

 ※インタビューは当時のものです。

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