『Interview Archive』は、『NewsLetter』に掲載されたインタビューです。
今回のインタビューは、2015年に行われたものです。
予めご理解のうえお楽しみください。

Interview Archive #22

エッジを越えて

向後善之 / 臨床心理士

カウンターカルチャーの潮流から生まれ、
当時先端にあった思想やセラピーの手法を翻訳や著書などを通じて日本に紹介してきた吉福伸逸。

その吉福氏が亡くなってから2年。
彼の思想に直接触れた人々の手によって、関連書籍である『吉福伸逸の言葉』
『世界の中にありながら世界に属さない』が続けて刊行された。

その手法は「吉福ワーク」と呼ばれ、
独特な世界観で人々の心身へ働きかける様子は著書のタイトルさながら、セラピーでありながら決してその枠のみに縛られることがない。

今回は、その「吉福ワーク」をアシスタントとして長年支えた『吉福伸逸の言葉』の著書の一人、セラピストの向後善之さんのお話をご紹介します。


B:吉福さんが亡くなられてから2年、『吉福伸逸の言葉』『世界の中にありながら世界に属さない』の2冊が続けて刊行されました。

吉福さんはワークショップは好きだけど、レクチャーを嫌っていました。くどくど説明するのではなくポンと言葉を置いて、そのあやふやさと共に、それぞれの人が理解してくれれば良いと言っていましたね。ところが晩年、自分の言葉を書籍として残したいと、講演会やレクチャーを始めたんです。

そのテープ起こしを元に『世界の中にありながら世界に属さない』を作っている最中の2013年4月9日、吉福さんから「癌で余命3ヶ月なんだ」と電話があり、30日に亡くなりました。

電話があったその日から、「学んできたこと・取り組んでいくこと」というシリーズを吉福さんの名前は出さずにフェイスブックで書き始め、それが元になって『吉福伸逸の言葉』ができました。この本についても、吉福さんは物ごとを謎のままにしておきたいみたいなところがあったから、あちらでなんて言ってるかな(笑)。

B:吉福さんの言葉やワークを継承していくために、今後どんな活動を予定していますか。

今すでに『吉福伸逸の言葉』の共著者である新海正彦さんとウォン・ウィンツァンさんと僕の3人で体験的グループセラピーを年に1~2回開催しています。僕らが解釈するという注釈付ですが、吉福ワークの流れを受け継ぐ活動です。そして、まだアイデアの段階ですが、ワークの方に重点を置き、絵や写真を入れて本を作ってみようかなと目論んでいます。

それと彼はスピリチュアル・エマージェンシー・ネットワーク・ジャパン(SEN Japan)というグループを作り、スピリチュアル・エマージェンシーに陥っている人たちをどのようにサポートしていったら良いかを考える活動をしていました。スピリチュアル・エマージェンシーというのは、人が成長していく過程で、その人の存在全体に関わる深い心理的変容をもたらす、苦難として体験される決定的な諸段階と定義されます。

吉福さんは「スピリチュアル・エマージェンシーと精神疾患の区別などなく、すべての精神疾患はスピリチュアル・エマージェンシーである」と考えていました。統合失調症、鬱、パニック、不安、すべて同じ。成長していく過程で、自分の嫌な部分、エッジの部分を見なきゃいけない時に人は混乱します。それをサポートするのが目的です。現在ではグループの名称をTEN(トランジショナル・エマージェンシー・ネットワーク)と変え、トランスパーソナル学会とTENの合同勉強会のような形で活動を引き継いでいます。

TENと名称を変えた理由ですが、「スピリチュアリティ」という言葉を本来の意味で使っているなら良いんです。ただスピリチュアル・エマージェンシーや神秘体験を「私は高度な成長段階に達した」と勘違いして、スピリチュアルなエリート主義に陥ってしまうと、精神的な成長は停滞し、極端な場合には退行を起こすこともあります。その延長線上にオウム真理教をはじめとする、いくつかのカルトの暴走があると思うんですよね。禅でいう魔境ですね。

B:体験として大事にしながらも、そこに嵌っていかない。

そう。変な意味づけをしないということです。そういったことも伝える勉強会にしていて、今年いっぱいは吉福さんの言葉についてやっていこうと思っています。吉福さんはズバッと言っちゃうから、いろいろ誤解されていたんですよね(笑)。

B:吉福さんの言葉にはリアリティがあって、読んでいるとすごく気持ち良く感じます。

なるほど、と思えると気持ち良いけど、痛いところを突かれる人は頭に来る(笑)。

B:実際の吉福ワークとはどのようなものだったのでしょうか。

2000年代の吉福ワークは、トランスパーソナルという枠組みでは語れないような統合的なワークショップを行っていました。ソマティックと呼ばれる身体心理学的アプローチを多用していたし、ゲシュタルト療法、精神分析療法、イメージ療法、フォーカシング、ドラマセラピー、それに一部のトランスパーソナル系の人が表面的だと批判する認知行動療法もだいぶ取り入れていました。

当時は治らないと言われ、日本では1日20錠以上も服用するような投薬治療を受けている方が多くいた統合失調症に対するケアにも力を注いでいて、「薬がなくても治る」と主張していました。僕はアメリカで統合失調症が治る可能性について学んでいましたが、日本に帰国すると耳を傾けてくれる人はいませんでした。しかし吉福さんは「全部治る!」と言い切っていましたね(笑)。最近、フィンランドで行われているアプローチで「オープンダイアローグ」という心理療法が注目されていますが、彼の取り組みと多くの点で共通点があります。「オープンダイアローグ」では患者やその家族から相談があった際、患者本人、家族、親戚、医師、看護師、心理士、元担当医などがただちに集まり、リーダーのいないオープンな話し合いを同じメンバーで継続的に重ねていくことで、統合失調症について70~80%以上の治癒率を示すと言っていますから、吉福さんの方向性は正しかったと改めて思います。

例えば、統合失調症の人が「宇宙人が攻めてくる!」と言うと、「どうしてそう思うんだい?」と治療者と患者という感じではなく、子どものように素直に興味を持って普通に話を聞いていく。話していくうちに妄想や幻覚の背景にある不安や恐怖が癒されて、幻覚も次第に無くなっていく。中でも、クライアントがアクティングアウトと呼ばれる、行動をともなう激しい興奮状態を起こした時の対応が見事でした。吉福さんは「アクティングアウトはチャンス」だと言っていました。

何かが出てくるということは、出そうとする何かがある。そのプロセスをしっかり完遂させれば、彼、彼女にとって一番良い所に収まるのだからと、何が起きても動じず、落ち着いていましたね。彼の言葉で言うと「道場に座る」という状態です。自分の中にまったくごまかしがない状態で、興味を持ってただ一緒にいる。飛び掛かってくるような時には、「拮抗する力」と言って、向こうが出そうとしているのと同じだけの力でこちらも押し返すんです。そうすると、受け止められたという感じがして、行動が段々と収まっていく。表情やからだの動きから、非言語メッセージを非常に鋭くつかまえて、かなり最先端なアプローチをしていましたが、よく知りもせずに批判する人が多いのも事実です。そのままでは嫌だし、せっかく吉福さんがやっていたことを何か形として伝え、吉福さん再発見のように注目が集まったら良いなと思ったのが本を書いたきっかけです。

B:「道場に座る」という状態になるのは、相当大変なのでは?

完全にはなりきらないでしょう。「道場に座る」という状態になるのは、たぶん悟りの境地だと思います(笑)私たちは、まわりの常識に合わせたり、空気に合わせたり、仮面をかぶって自分のことがわからなくなってしまう。だから、吉福さんのワークでは、自分の中の仮面を一枚ずつ剥ぎ取る作業を行います。それは大変なことですが、仮面を脱がなければ「道場に座る」という状態に近づけません。

B:吉福さんは健常者と言われる人も精神疾患を患っていると言われる人も、何も変わりはないのだと言われていますね。

そうです。皆同じだとよく言っていました。例えば寝ている時に夢を見ますが、夢は支離滅裂で、まさに統合失調症的な世界です。だから皆の中に統合失調症的な部分はある。その夢が現実に染み出てしまっているのが統合失調症とも言えるでしょう。

同じように、ヒトラーやオウム真理教の幹部の人たちのことを普通は自分とは違うものとして切り離しがちですが、そうではないんですよね。ナチス的なもの、オウム的なものは誰の中にでもある。そこを理解していかないとセラピーもできないし、相手を理解することもできません。

僕は平和主義者ですから(笑)、昔はアクティングアウトや争いが苦手で、グループワーク自体が嫌いだったから、適当なところでうまく収めていました。だけど、僕がワークのアシスタントをやっていると「向後さんは、うまく収めるよね」と言葉を残していくんです(笑)。それが呪いの言葉のように僕の中に残って、「そうだよな、俺はうまくやっちゃってるよな……」と辛くなって、ワークに出たくなくなる。大学院に勤めているので「学校の用事がありますんで」とか、「どうしても入試関係で」と言って帰ろうとすると、僕のカバンに紐をつけて柱に結わえてるの(一同笑)。本当に子どもっぽいことをする。

あの時は本当に逃げたかった。ウォン・ウィンツァンさんも、新海正彦さんも、もう一人の共著者の新倉佳久子さんも全員、ワークに出たくなくなった時期があるみたいです(笑)。そういう、きつい玉を投げてくる面白い人でした。

B:一方で向後さんのハートコンシェルジュで行われているカウンセリングやセラピーは、より気軽で日常的で多くの人に広く開かれている印象を受けます。

そうですね、全部含みます。心の病気や重い悩みを抱えた方も来られますし、これからの人生をどうしたらいいか、いわゆるコーチング的な分野までカバーする形でやります。基本はだいたい同じで、できるだけ「道場に座る」という状態で接します。

B:セラピストの中には、道場に座れる人と座れない人とがいるような気がします。

答えにくい質問ですね(笑)。道場に座れない人は沢山いると思います。日本でもセラピストが多くなってきたけど、少し問題のあることをやってしまう人もいる。一生懸命やろうとしても道場に座ってない状態だと、相手をちゃんと見ることができずに、実は心の奥底で慌てふためいてしまうわけです。それを隠そうとして変に説教的なセラピーになって逆にクライアントを傷つけてしまったり、自分の主義を強引に押しつけてしまう。ひきこもりの子に単に「学校は楽しいよ」と言ったって駄目でしょう? クライアントに理論を押しつけるのでなく、クライアントに理論を合わせろとよく言われますが、それは道場に座っていないとなかなかできません。クライアントがどの理論にも当てはまらない時も、道場に座っていれば、このクライアント用の新しい理論を作ろうという柔軟な発想が可能になっていくわけです。

B:お話を伺っていると、吉福さんは頭で考えてアプローチするというよりは、その場の波に乗って、直感的に動いているような感じを受けます。

鋭いですね。吉福さんは音楽をやっているんです。ジャズの即興演奏みたいにピアノがこう来たから、ベースはこう行く、そんな感じで、本当に直感的にやっているように見えましたね。直感というのはすごく大事だと話していました。

B:ご自分には吉福さんのようにできないというような葛藤やジレンマはありましたか?

もう僕には絶対あんな風にできないと思っていましたが、ある程度道場に座れるようになると即興的な動きができてくる。考えるというより、ただその人と一緒にいるだけになる。そうするとクライアントが何も言わなくても、気持ちが伝わってくるんです。自分のことのように、ふと悲しかったり、悔しかったり、共鳴していく。そうして自分の中の細かい情動の動きからアプローチしていきます。例えば、どうしようもない悪ガキがセラピーに来たとします。喋りたくないよね。僕は大人の仲間だし。「どうしたの?」と聞くと、「別に何もないっすよ」とか言うわけです(笑)。何を聞いても黙っている時に、ただ一緒にいると、ふと「こんな気持ちなんじゃないかな?」と浮かぶんです。外れてもいいから、「悔しかったのかい?」と聞くと、突然泣き出してしまうようなことが起こります。こちらが空洞になるみたいな感じかな。そうすると上手くいく。頭から入って、「次は認知行動やりましょう! イメージワークでやりましょう!」というと全然駄目なんですよね(笑)。

吉福ワークは、自分の感覚をしっかり見るというワークです。それを体験させるために「“どけ”のワーク」というひどいワークをさんざんさせられました(笑)。ペアを組ませて、そこにもう一人オブザーバーを付ける。一人が座っていると「そこは俺の席だからどけ!」と言うわけです。座っている人が本気の怒りを感じたら、初めて席をどく。オブザーバーは、ペアが適当なところで妥協しようとしたら、駄目出しをする役目も担っています。だけど、関係ない人に向かって本気で怒るというのが普通はできない。でも2時間とか3時間とか経って、自分の怒りの根源にアクセスすると、やっと「ドケーーーー!」と出てくるわけです。そうすると自分の感情が、はっきりわかってくる。通路ができるということなのかな。怒りが出てきたらどうしようという構える気持ちや、自分の感情に対する怖さがなくなってきます。

スタニスラフ・グロフの理論ですが、記憶というのは、ひとつのクラスターのように溜まっていく。だから怒りにアクセスしようとして、最近頭に来たことを深く考えていくと、怒りの記憶がブドウの房のようになっているので、段々と房の内側にある無意識領域に閉じ込められていた怒りにまで到達する。その出来事が何だったかという詳しいことまでいつもわかるとは限りませんが、今までちゃんと表に出せずにいた怒りがワッと出ると、怒り自体も解決に向かっていくんですよね。

僕の解釈ですが、吉福さんのワークをやっていると、なんとなくいびつだったものが、ちゃんときれいなマルになっていくような感覚になりました。100%出し切っちゃうと開放されたような感じで本当に良いんですよ。だから怒りというのも悪いもんじゃないなと思います。

B:感情に善悪はないということでしょうか?

そういうことです。行動はコントロールしなきゃいけないけど、感情には善悪がないんだということ。それを見つめれば良いんです。今、日本を見ていると「私はこう思う」とあまり言えていないと思うんですね。空気を読むという文化に引っ張られて、空気に合う仮面をかぶっていく。吉福さんは「会社も学校もすべてカルトだよ」と過激なことを言っていましたが(笑)その空気にやられて皆同じことを言うでしょ? そうではなくて、自分の仮面に気づき、ごまかしのない自分に覚醒していくことを訴えたかったのだと思います。それはオーセンティックという自分の中に矛盾がないという状態です。要するに自分の感情や感覚をジャッジしないで歪めずに見ている状態。怒っているなら怒っているで、今はこういうことで怒っていますと、ちゃんと認識できる世界を望んでいたのかな。仮面を脱いだ世界ですね。

吉福さんは自分にとって居心地の良いそういう世界になってほしいと思っていたんですよね。「自分のためにセラピーをする」と言っていましたから(笑)。

B:向後さんもクライアントの方に、そういう自己矛盾のない状態になって欲しいと思ってセラピーをされているのですか?

なったらいいなと思いますが、その人のペースや時期がありますからね。今、そこまで深堀りすると壊れてしまう人もいる。だからその人のペースで進んでいけば良いと思います。それに自分に関しても、もう十分に道場に座れるようになったと思っていると、またじわじわ新たなテーマが見えてくる。そうしてまたドロドロした自分の暗部を見ていく、その繰り返しだと思うんです。たぶん一生続いていきます。とりあえず、うまく収めて良い人の顔をするというのはだいぶ克服したと思うんだけど、「これで僕は大丈夫かな」と安心していられる期間はほんの少しだけです(笑)。

B:そういう成長や変化していくことを「アイデンティティの破壊は存在の力を強くする」という言葉で吉福さんは説明されていますね。

そうですね。小さな変化も全部そうですが、変化の過程でアイデンティティが崩壊し、今までの自分が死んでしまうような経験をする場合があります。実は、それはアイデンティティの一部が変わるだけなんですが、場合によってはこの世の終わりみたいに感じてしまい、酷くなると、欝やパニック、精神病になってしまうことがある。

ケン・ウィルバーや吉福さんは「破壊→再構築→習慣化」が成長プロセスだと言っています。今までやっていたパターンを壊し、新しいパターンを作っていきます。しかし、もとのパターンも実は残っています。吉福さんは成長という言葉が嫌いで、変化と言っていましたね。へそ曲がりだがら(笑)。変化したけど、下手したら成長という観点からは間違った方法に退行することもあります。だから変化ぐらいで謙虚にしておいたほうが良いんだと。最後に話した時、「向後さんは大きく変化したよね」と言ってくれたんです。僕にとっては彼からもらった大きなプレゼントですね。遺言です。でも、その時ぐらい成長と言ってくれても良くない?(一同笑)「大きく変化したよね」って、吉福さんらしい言葉です。

B:今後の展望を聞かせてください。

吉福さんが亡くなってから、僕はやっぱり混乱していましたね。ですから自分の中を整理するために本を書いたという部分もあります。これからは、吉福さんも取り組み実践していた、統合的なセラピーを伝えていくことに力を入れようと思っています。どの理論も絶対ではなくて、どのように組み合わせていくかということ。それについては吉福さんともだいぶディスカッションしましたが、そういうことを伝えていきたいなと思います。

B:未来に向けて、健やかな成熟した関係性とはどのようなものだとお考えですか?

これはすごく大事なことでね、「僕たち同じ釜の飯を食った!」みたいな、根拠がありそうで実は根拠の薄い繋がり感ってありますよね? 成熟した関係性とは、そうした関係ではないと思うんです。

僕が考えているのは、違いを尊重するということです。皆それぞれに違っているけど、緩やかに繋がっているような関係が良いと思う。違いを面白いと感じ、受け入れられる世界。違いから新しいものが生まれてくる。今、世の中では、「原理主義」対「原理主義」の戦いになっています。お互いを馬鹿にして話を聞かない。これでは議論にならず、ダイバーシティ(多様性)が尊重される世界にはならないんですね。

原発や集団的自衛権にしても、物事というのはどれが正しいかなんてわからない部分がいろいろあります。だから、例えば原発について言えば、「動かしたらどうなるの? 止めたらどうなるの?」とお互いの意見を尊重しあいながら議論していけば、建設的なディスカッションができると思います。

大学院の時、マイケル・カーンという自己心理学の有名な教授がいたんです。学期最初の彼の講義の時、生徒の一人が「僕は先生の理論に反対です」と言い始めました。カーン教授は怒らず、「では、こういうクライアントがいたとする、君の理論ではどう考えるんだ?」などとたずねるので、なんとその場でディスカッションが始まってしまった。

さらに驚いたのが、「君の言っている対象関係論の理論のその部分を、僕はよく知らないんだ。ちょっと説明してくれないか?」とその生徒に説明させて、「今日は良いディスカッションができた」と帰っていくんです(笑)。大先生が生徒に対して「その部分を知らないんだ」と言えるのは、すごく格好良いなと思いましたね。ああいう感じになれたら良い。少なくとも、それが格好良いという世の中になっていけば、ずいぶん変わってくると思います。

B:身近な人が問題を抱えて悩んだり、苦しんでいる時、まわりの人はどんなサポートができるでしょうか。

一緒にいて、ひたすらその人が悩んでいるテーマに関心を持つということです。何か答えを出そう、何とかしようって、そんなことは気にしなくて良い。一番の基本は、「なかなか難しい問題だよね」と言って、一緒に悩むのが良いんじゃないでしょうか。そうすると相手も、「私が悩んでるのは難しい問題なんだ」となる。そして一緒に悩んでくれる人がいる。それはすごい助けになりますよね。

B:そういう人がいるかいないかで、その後は大きく変わる気がします。

そうなんです。最初の時に、「難しいよね」と言って一緒にいてくれる人がいたら、欝にもパニックにも精神病にもならないケースが沢山あると思います。そこで「だからお前は!」となると、「自分は病気なんだ、僕の考えはダメなんだ……」となってしまう。そしてウツウツとなって病院に行ったら欝だと診断される。

統合失調症が認知され始めた頃の面白い話があります。研究者が統合失調症の患者をいろいろ探して研究していました。トムさんという神からのメッセージを受けとる人がいるからと、研究者たちがアメリカ中西部の牧場にトムさんを探しに行くんです。「トムさんはどこにいますか?」とその辺にいる人に聞いたら「ああ、あっちにいるよ」と。

そして「トムさんはどうですか?」と聞く。そうしたら「確かにあいつは、変なこと言うよ。でも、牛の乳はしっかり搾るよ」と(大笑)。それぐらいダイバーシティを認めたら、だいぶ楽になりますよね(笑)。

B:最後に、今回刊行された2冊を、どんな方に読んで欲しいと思われますか?

それはもう吉福ワークと同じで、セラピストに限らず、自分のエッジに引っ掛かりを感じている人みんなに、ヒントにしてもらえたら良いなと思います。『世界の中にありながら世界に属さない』がちょっと難解なところがあるテキストなので、『吉福伸逸の言葉』が「虎の巻」みたいにアンチョコになってくれると良いですね。

B:本日は、ありがとうございました。


向後善之 Yoshiyuki Kogo

臨床心理士。神奈川県に生まれる。
石油会社での会社員生活の後、渡米。
CIIS(カリフォルニア統合学大学院)では、統合カウンセリング専攻。
サンフランシスコ市営のRAMS(Richmond Area Multi-Services)他でカウンセラーとして働く。
現在、東京恵比寿のカウンセリングオフィス「ハートコンシェルジュ」常務執行役員、カウンセラー、カリフォルニア臨床心理学大学院東京キャンパス准教授。
著書に『自分をドンドン傷つける「心のクセ」は捨てられる!』(すばる舎)、『人間関係のレッスン』(講談社現代新書)、『カウンセラーへの長い旅 四十歳からのアメリカ留学』(コスモス・ライブラリー)他。
共著に『吉福伸逸の言葉』(コスモス・ライブラリー)他。
日本トランスパーソナル学会常任理事・事務局長、日本家族と子どもセラピスト学会理事。

ハートコンシェルジュ
https://www.heartc.com

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