vol.773

2022年10月満月のたより

豊作です 秋の歴史コミック収穫祭

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2022年10月の満月のたより

豊作です 秋の歴史コミック収穫祭

ここ一、二年の間に、歴史マンガの大作が相次いで完結しました。歴史上の人物や出来事、時に神話をモチーフにしながら、想像の翼を飛翔させ、読者の予想をはるかに超えた世界を表現する作者の力量には、驚嘆すべきものがあります。また、連載の打ち切りや作者の体調不良、掲載誌の廃刊、出版社がなくなるなど、様々な困難をくぐり抜けつつ長期連載を維持し、納得いく形に物語を着地させるのは、至難の業なのだと聞きます。そのような偉業を成し遂げた、作り手さんたちへの敬意と感謝を込めて、今回は歴史系作品を、新旧取りまぜてご紹介します。


しかし君は、いや人類は正面から向き合うべきだ。麗しの天国なぞ、ないのかもしれないということに。
だがこの地球は、天国なんかよりも美しいということに。君だって、本当は信じたいだろ?
この星は生きるに値する
素晴らしい何かだと。

– 魚豊 - 『チ。―地球の運動について―第2集』より


ITEM
Art/マンガ

■ぼおるぺん古事記 全3巻

第1巻:天の巻

第2巻:地の巻

第3巻:海の巻

こうの史代 / 平凡社 / 各1100円(税込)

日本最古の神話『古事記』の原文(書き下し文)を生かしつつ、ボールペンという道具でカジュアルに描かれた「絵」によって、物語を読み解いていく。文章だけだとイメージしにくかったそれぞれのエピソードが絵になることで、子どものように自由で残酷、わがままでそれでいて愛らしい神々の姿が、生き生きとよみがえる。

Art/マンガ

■阿・吽 全14巻

おかざき真里 / 小学館 / 1~13巻713円(税込)、14巻750円(税込)

平安時代初期、後に比叡山延暦寺の開祖となる最澄と、日本に密教をもたらし、弘法大師の名で知られることになる空海。それぞれの信念の下、狂気と紙一重なまでに仏教の教義を追求する二人の天才の姿を描く。この二人が同じ時代に近い場所に生まれたということが、そもそも奇跡のように思われるのだが、その史実を基に、二人が求めた真理の世界を具象化した作者の筆力にも圧倒される。

Art/マンガ

■チ。―地球の運動について― 全8巻

魚豊 / 小学館 / 1~6巻650円(税込)、7、8巻715円(税込)

何かを知る前と後とで、全く世界の見え方が変わるということがある。15世紀ヨーロッパ。世界は唯一の創造神によってつくられ、地球が宇宙の中心と考えられていた時代、当時異端とされた地動説の研究に没頭した人々がいた。関われば、苛烈な拷問の末に火刑に処せられるということが分かっていながら、人々を駆り立てたのは何だったのか? 「チ」の探究に魅せられ、真理に殉じた人々の物語。

Art/マンガ

■大奥 全19巻

よしながふみ / 白泉社 / 737円~759円(税込)19巻のみ特装版1980円(税込)

江戸時代、鎖国下の日本で、謎の疫病により男子の数が激減。労働の主な担い手が女性となり、将軍職も女子へと引き継がれた徳川三代将軍、家光の時代から幕末までを、大奥を基軸に描く年代記。そこに描かれる登場人物たちの苦悩や述懐、疫病に対する向き合い方は、男女の役割などをはじめとした現代の価値観が、本当にゆるぎないものなのか? 性別や身分に縛られずに生きるとは、どういうことなのかを問いかけてくるようだ。

Art/マンガ

■ゴールデンカムイ 全31巻

野田サトル / 集英社 / 1~29巻594円(税込)、30、31巻693円(税込)

明治後期、日露戦争終結後の北海道で、帰還兵杉元が出会ったのは、アイヌの埋蔵金の噂とそれに深く関わる少女アシリパだった。脱獄囚たちの体に、刺青で刻まれたという埋蔵金の在処とは一体どこなのか? 丁寧に描かれる北海道の大自然と、そこに根付いたアイヌの文化と生きる知恵、それぞれの立場、思惑で行動する複雑でアクの強い登場人物たちの、血湧き肉躍る黄金争奪戦。

Wisdom叡智・宗教/仏教

■ブッダ 全12巻

手塚治虫/ 潮出版社 / 各514円(税込)

王子として生まれ、何不自由ない生活を送りながら、なぜ人は苦しむのか、なぜ死ぬのかという疑問を持ち、修行の道に入ったシッダルタ。釈迦を素材としながら、多くの独自解釈を加え、子どもにもわかりやすい形で、人間の生と死を考える、手塚版、人間釈迦の生涯。

Art/マンガ

■孔子暗黒伝

諸星大二郎/ 集英社 / 792円(税込)

その独特の作風と発想で、異彩を放つ漫画家、諸星大二郎による、もう一つの孔子伝。時空を駆け巡り、老子や釈迦も登場するSFロマン。


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