vol.744

2021年7月満月のたより

政府が無くなったら国は無くなる?

Photo by Javier Allegue Barros on Unsplash

政府が無くなったら国は無くなる?

コロナ禍にも関わらず、様々な国から選手や関係者を招く、
オリンピック、パラリンピックが行われようとしている一方で、
ウイルスの感染拡大を防止するための緊急事態宣言が発出された。

明らかに大きな矛盾を抱えたこの状況を見る限り、
市民の安全を守るという点について、
今、日本の政府、行政がうまく仕事をしているとは考えにくい。
とはいえ、政府が無くなったらどうなるだろうか?

無政府主義とも呼ばれるアナキズム。
暴力的な混乱状態を思い浮かべがちな言葉だが、
政府や国家の代わりに、土着の繋がりやケアを通して
コミュニティを運営していこうという思想でもある。

今ここにある現実だけを肯定していては、
変化が生まれる可能性を考えることも難しくなる。
いつもの当たり前が無くなってみても、
わたしたちは案外生きていけるかもしれない。

そんな想像を巡らせてみるための9冊。


わたしたちがみずからつくりだしてきたもののなかには、
なにかとてもおかしなところがある。
わたしたちは、仕事を基盤とした文明をつくりだしてきた
—ここでの仕事とは「生産的な仕事」というよりも、
それ自体が目的でありそれ自体に意味のあるような仕事である。

さらにわたしたちは、自分にとってもとくに愉しくない仕事なのに、
その仕事を勤勉にこなしていない人間を見ると、悪人とみなし、
愛情にも、ケアにも、支援にも値しないと考えるようになった。
まるで、わたしたちがこぞって自分自身の隷属化を黙認しているかのようなのである。

わたしたちが大半の時間を完全に無意味で反生産的ですらある活動
—たいてい、自分の好きでもない人間からの命令下でおこなわれる—に
従事しているという自覚に対する、主な政治的反応は、
この同じ罠にはまっていない人間も世の中には存在するという事態への、
反感をともなった怒りである。

結果として、嫌悪と反感と疑念が、
わたしたちの社会をまとめあげる接着剤となった。
これは悲惨な状態である。ねがわくば終わらせたい。

– デヴィッド・グレーバー –
『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』より

ITEM

クソどうでもいい仕事の理論
デヴィッド・グレーバー / 岩波書店 / 4070円(税込)

自分のこなしている仕事は存在すべきものなのか、それとも仕事という概念のために作り出された仕事、ブルシット・ジョブなのか。人類学者でありアナキストであり、ウォール街占拠運動を牽引したアクティビストでもある著者による、労働の本質はケアであるという考察。

ケアするのは誰か?
新しい民主主義のかたちへ
ジョアン・C・トロント / 白澤社 / 1870円(税込)

超高齢化が進むなど、ケアが必須な現代社会だが、それを提供する人々は常に不足している。膨大なこなすべき活動があり、ケアする時間を割けないのはもはや個人の能力の問題ではない。既存の思い込みによる役割分担ではなく、社会活動としてケアを行うために民主主義の再定義を提唱する。

もう革命しかないもんね
森元斎 / 晶文社 / 1870円(税込)

家を探し農作業をし、仕事をし料理をし、そしてその他にもいろいろと、生活をしながらアナキズムを胸に革命を目指す。九州の里山に移住した哲学、思想史研究者でアナキストの著者が、一般的に思われがちな無秩序などでは決してない、現実を見つめながら可能性を開いていくアナキズムな生き方を等身大で語る。

アナキズム入門
森元斎 / 筑摩書房 / 946円(税込)

時代が進むにつれ、社会はより成熟していくはずが、刺々しくケチケチした雰囲気に覆われている気がするのはなぜなのだろう? 若き哲学、思想史研究者が確かな知識をベースに、しかしアナーキーに砕けた文体で、生物としての原初の営みを取り戻す、優しき共生の思想であるアナキズムへと私たちを誘う。

〈新装〉増補修訂版 相互扶助論
ピョートル・クロポトキン / 同時代社 / 3300円(税込)

本書はプルードン、バクーニンと並び、近代アナキズムの発展に貢献した、クロポトキンによる小論文をまとめたものである。戦いに勝つ適者が生存するのではなく、困難における相互扶助が人間、生物の本来の姿であることを説く。

実践 日々のアナキズム
世界に抗う土着の秩序の作り方
ジェームズ・C・スコット / 岩波書店 / 3080円(税込)

暴力的な政治運動や革命ではなく、混乱した無政府状態のことでもない、日々の暮らしから社会を変えていくこと。それが国家の束縛から離れたあり方、アナキズムの実践である。全体の秩序、大きな枠組みに抗う土着の仕組みを、著者の西洋社会での経験を通して解き明かしていく。

ちゃぶ台 Vol.5 「宗教×政治」号
ミシマ社 / 1760円(税込)

つい避けて通りがちなトピック、宗教と政治。人々が地域で暮らしていくために必要なことを、着実に進めていくための考え方として、本号はアナキズムを提案する。行政の支援が届かない時、自分たちはどうするのか。その時の心の拠り所は? 当たり前を取り外し、自分事として政治や宗教を考える特集。

みんなの「わがまま」入門
富永京子 / 左右社 / 1925円(税込)

自分の意見を言い、行動することに感じる抵抗感とは一体何なのだろうか? 自分の不自由を表明することを「わがまま」と名付け、その「わがまま」を伝えあうことで、総員で社会を作り上げることを目指しつつ、自身を表明することで周囲から浮き立つことを極端に恐れる日本人の心理を社会学的にひも解いていく。エクササイズ付き中高生向け講座の体裁をとりながら、読むべきはまずは私たち大人である。

世界を変えるための50の小さな革命
ピエルドメニコ・バッカラリオ、フェデリーコ・タッディア / 太郎次郎社エディタス / 1760円(税込)

イタリア発、子供のための冒険ガイドシリーズ第3弾。ペットボトルの水を買わない、嘘をつかないなどの簡単に(?)できそうなものから、違う性別っぽい行動をしてみる、宇宙人の目で世界を見てみるなどのトリッキーなものまで、大人も試す価値ありの、世の中をより良く変えるための、小さくて大きい50の革命リスト。

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