vol.752

2021年11月満月のたより

砂漠と鉱物

Photo by Francesco Ungaro on Unsplash

砂漠と鉱物

砂漠と聞くと「不毛の」とか「灼熱の」といった
そこに適応したものしか生きることを許されない、
厳しい自然環境のイメージが浮かんできそうですが、
すっきりと研ぎ澄まされた空の色や、
別の星のような非日常的な景観に、
心惹かれる人は案外多いのではないでしょうか?

砂はもともと岩石などが砕けたものだそうですが、
その砂もまた堆積などによって、
ふたたび岩になる可能性を秘めているのだといいます。
水が水蒸気、雲、雨へと姿を変えるように、
石や砂もまた、長い時間をかけて形を変えながら流転しているかと思うと
なかなかに感慨深いものがあります。

生き物の濃密な気配漂う豊かな土壌も良いものですが、
時には極限まで削ぎ落とされた、
砂漠や鉱物の世界を覗いてみるのはいかがでしょう?


コルクトは、人はなぜ生きるか、
死からは逃れられないものかと自問しながら、砂漠をさまよう。
各地を巡るが、どこに行っても自分の墓穴が目の前に現れる。
やがて、人間は誰もみな
死から逃げることはできないと悟ったコルクトは
砂漠を離れ、故郷のシル川へ戻り、
コブズという弓奏楽器を考案し、
いくつもの曲を作り奏で続け、やがて死を迎えた。

ここでは、砂漠と川が
「死」と「生」を象徴していることが明瞭に理解できる。

– 日本沙漠学会 –
『沙漠学事典』より

ITEM

Science/自然

沙漠学事典
日本沙漠学会 編 / 丸善出版 / 24200円(税込)

砂漠の成り立ちや風土、そこに暮らす生き物たちの独特の生態、世界における砂漠化の問題から緑化の功罪まで、砂漠にまつわるあれこれを、理系文系の枠を越え、専門家たちが解説。巻末の参考文献とは別に、各項目執筆者の、お薦め文献が載っているのも嬉しい。砂漠のことを知ってみたいと思ったとき、まずは手に取りたい1冊。

Science/地球

世界の砂図鑑
写真でわかる特徴と分類
須藤定久 / 誠文堂新光社 / 2860円(税込)

海辺の砂浜や、公園の砂場で砂を目にする機会はあっても、その一粒一粒をじっくりと観察する機会はあまり無いかもしれない。しかし私たちが気づかずとも、セメントや研磨剤など、砂は建築や金属加工などの分野で私たちの暮らしを支えているのだという。鳴き砂はなぜ鳴くのか? 星砂はどうして星のような形をしているのか? ルビーやサファイアを含んだ砂とは? など、地形や環境と密接に結びついた、世界各地の砂の特徴を、美しいカラー図版と共に知ることが出来る。

Science/地球

日本の国石「ひすい」
バラエティに富んだ鉱物の国
一般社団法人 日本鉱物科学会 監修/土山 明 編著 / 成山堂書店 / 3300円(税込)

2016年に実施された「日本の国石」選定事業にからめ、石を通じて地球や宇宙のことを知る「鉱物科学」という学問の紹介、ひすいを始めとした様々な鉱物が産出される日本の地質的特異性、資源としての利用法や楽しみ方まで、しっかりとした基礎知識を盛り込みつつ、石の魅力を伝える。

Society/平和

カカ・ムラド~ナカムラのおじさん
ガフワラ 原作、さだまさし他 訳・文 / 双葉社 / 1650円(税込)

干ばつと戦乱で荒廃したアフガニスタンで砂漠に水路を引き、支援に力を尽くしていた中村哲医師が、凶弾に倒れたのは2019年12月のこと。その功績を伝えるために、現地の人々の手によって作られた絵本に、解説を加えたものが本書。水路を引く前の砂漠の写真と、引いた後の緑あふれる光景が胸を打つ。

Art/物語・童話

星の王子さま
オリジナル版
サン=テグジュペリ 作 / 岩波書店 / 1100円(税込)

砂漠が舞台の物語は数あれど、これを外すのは難しい。「大人は誰も、初めは子供だった。しかしそのことを忘れずにいる大人はいくらもない」。フランス軍の飛行中隊長として、コルシカ沖で行方不明になった作者の言葉。今も多くの人の胸にしみいる子供と大人のための童話。さし絵の色調を、初版本に合せて再現したオリジナル版。

Art/写真

植田正治写真集:吹き抜ける風
植田正治 / 求龍堂 / 3300円(税込)

植田正治は、砂丘を背景に自分の家族や物体を、静物のように配置し、独特の世界観を写し出した写真家。砂丘の乾いた空気感と、被写体への一歩引いた距離感が、静謐でシュールな世界を生んでいる。それでいてどこかユーモアや懐かしさを感じさせるのは、撮影者の人柄や、撮影対象への思いなのかもしれない。

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