meeting with remarkable people #26

ラビンドラナート・タゴール

1861 - 1941

インドの詩人、思想家。ベンガル固有の宗教、文学に精通。
欧米の学問を修め、インドの独立、社会進歩、平和思想、東西文化の融合のために闘った。インド国歌の作詞、作曲。
バングラデシュ国歌を作詞した。『ギタンジャリ』で、東洋人初となるノーベル文学賞受賞。

夏の迷い鳥たちは、
わが窓辺にきて歌をうたい、
飛び去る。
秋の歌なき黄ばんだ木の葉は、
吐息とともに舞いおちる。

この世の、
ほんの小さな放浪の一座よ、
わたしの言葉のなかに
きみたちの足跡を
とどめていっておくれ。

– 『迷い鳥たち』 – 

 東洋人として、初めてノーベル文学賞を受賞した詩人タゴール。彼は、インドの民衆と社会に大きな影響を及ぼした思想家だった。同時に西欧に東洋哲学の奥深さを知らしめた人物としても、その功績は大きい。インドの近代化を促すとともに、東西文化の融合につとめた彼の一生とは、どのようなものだったのか。

 1861年、ラビンドラナート・タゴールは、インドの西ベンガル州カルカッタ(現在のコルカタ)に生を受けた。祖父は大実業家、父は「偉大なる聖者」と敬われる宗教改革者だった。彼は、カーストの因習を改革しようという父の影響を受けながら、家庭で徹底した英才教育を受けた。才知あふれる子供で、8歳の頃から抒情詩を作ったという。その後も、英国式の私立学校に通い、先進的な教育を受けた。しかし、生来の自然児だったタゴールは厳格な詰め込み教育に耐えられず、いわゆる「おちこぼれ」で、3度も転校し、心配した父は、17歳になった彼をイギリスへ留学させることにした。

 1年半に渡る留学生活を送ったが、またしても卒業には失敗。しかしこの時の経験が、詩人としての彼を大きく成長させた。西洋の古典文学やイギリス浪漫派の詩人たちの作品に親しみ、ヨーロッパ音楽に触れた。帰国後、彼は内心の孤独や失意を、形式や韻律の伝統にとらわれない、自由な表現方法による詩として表現し、一躍文壇で名を知られるようになった。後に「心の荒野」と名付けられた彼の作品は、傷つきやすい若者特有の自意識と感傷に満ちたものだった。

 タゴールがその殻をやぶり、生命の歓喜を謳い始めたのは、21歳の時である。この大きな転換を彼は回想の中でこう語っている。「私がバルコニーに立っていると、通行人のそれぞれの歩きぶりや姿や顔つきが、それが誰であろうと、すべて異常なまでにすばらしく見えた。宇宙の海の波の上をみんなが流れて過ぎてゆくように、子供の時から私はただ自分の眼だけで見ていたのに、今や私は自分の意識全体で見はじめたのだ。」この自己忘却の至福の状態は4日間続いたという。彼は、この時の直観を深化させ、詩へと結晶化することを自分の人生の課題とした。

 1883年、22歳の時に結婚。4年後には再びイギリスへ渡航。彼の詩は、文学としての成熟度を高めつつ、社会的な傾向も見せ始めた。1901年、彼はボールプル近郊のシャーンティニケータンに、5人の生徒を集めて野外学校を設立。この学校は、インドと西欧の最良の伝統のよき融和を求めるもので、現在はヴィシュヴァ・バーラティ国立大学となっている。

 1912年、51歳の時、宗教的瞑想生活の中から生まれたベンガル語詩集『ギタンジャリ』を自ら英訳して刊行。その原稿を読んだイギリスの詩人、W・B・イェイツは深く感動して絶賛し、序文を贈った。その結果、この詩集は世界中の人に読まれることになり、1913年にノーベル文学賞を受賞する。

 インド国歌の作詞作曲を行ったタゴールはまた、インドの独立、社会進歩、平和思想、東西文化の融合のためにも闘った。「インドの偉大な魂」と言われるガンジーと、「国父」として慕われるタゴールの交友は、生涯に渡って続いた。世界中を旅し、各界の人物とも対話を行い、アインシュタインの別荘を訪れた時に行われた、量子力学をめぐる対話は今でも伝説となっている。日本にも3度訪れているが、好きであった日本が軍国主義に染まっていくのを見て落胆していたという。晩年は病に苦しみ、世界大戦の惨事や、民族独立運動に対するイギリスの弾圧に心を痛めながら、カルカッタで逝去した。1941年、80歳の時だった。

 西洋と東洋。ベクトルや感受性の異なる流れの間に、「詩」という架け橋によって、新しい交流を生み出したタゴール。彼の紡ぎ出す言葉や音楽は、国や世代を超えて、今も人々の魂をふるわせ続けている。


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