meeting with remarkable people #28

ジョーゼフ・キャンベル

1904 - 1987

アメリカ、ニューヨーク州生まれ。
比較神話学、比較宗教学で知られ、大学教授として教鞭を執りながら、
世界各地の神話の比較研究を元に多くの作品を執筆、比較神話学の第一人者として活躍した。

人々はよく、われわれは生きることの意味を探っていると言いますが、
人間がほんとうに探求しているのは、たぶん生命の意味ではありません。
人間がほんとうに求めているのは、<いま生きているという経験>だと思います。
純粋に物理的な次元における生活体験が、
自己の最も内面的な存在ないし実体に共鳴をもたらすことによって、
生きている無上の喜びを実感する。それを求めているのです。

『神話の力』

 神話は、古代より人間の生活に活力と方向性を与えてきた。しかし、今日ではその意味や価値が失われつつある。私たちの手から離れてしまった神話にもう一度出会うべきだと考え、宗教を超えて世界中の神話を研究し、神話の持つ力を見出したのがジョーゼフ・キャンベルだ。

 1904年、キャンベルは、典型的な上流中産階級の長男として、ニューヨーク州に生まれた。父親の一族はアイルランド系のカトリック信者であり、彼も18歳になるまで、ローマン・カトリック教会が運営する学校に通っていた。キャンベルが初めて神話の世界に惹き付けられたのは、6歳の頃に父親と一緒に見たショーだった。ネイティブアメリカンを討伐する連邦隊長バッファロー・ビル。その年頃の他の子どもたちと違い、キャンベルは主役の白人よりも討伐されるインディアンに強い興味を抱いた。彼はその後、ニューヨーク自然史博物館に通い、インディアンの儀式や文化に関する資料を読み漁り、その幼さで早くもインディアン史、特にネイティブアメリカンの神話に精通するようになった。

 1921年、18歳で大学に入学。生物学、数学そして英文学や比較文学を専攻。陸上競技の選手としてもニューヨーク市の記録を塗り替え、一時はハーフマイル走の世界記録を持つほどのアスリートだった。また、ジャズ・バンドに入ってサックスの演奏もしていた。サックスは、後に隠遁生活を送った時に食費を捻出できるくらいの腕前だったといわれる。

 1924年、家族でヨーロッパへ旅した帰路の船中で、インドの思想家クリシュナムルティに出会い、仏教とヒンドゥー教に初めて興味を持つ。帰国後、大学院に進んだキャンベルは、ヨーロッパの「アーサー王伝説」を研究。その後、留学先のパリやミュンヘンの大学で語学を学ぶ傍ら、ジェイムズ・ジョイスなどの新しい文学や、ブラック、ピカソなどのキュビズムに興味をもつ。また、フロイトやユングの思想を学び、晩年に強く傾倒した仏教思想にも、この頃出会った。各地で広い見識を得て、それらへの深い興味を持ったことで、キャンベルはカトリック教会に距離を置くようになった。

 大学で博士号を修得する予定であったキャンベルだが、家庭の経済的事情でアメリカに帰国した。その頃のアメリカでは、株の大暴落とその後の不況のため、就職先を見つけるのが困難であった。彫刻家志望の妹とウッドストックの森の中で隠遁生活を始め、昔とった杵柄のサックスの演奏で、なんとか食費をまかないながら読書三昧の日々を送った。

 1933年、キャンベルは29歳で教職につくことができ、語学を教えながらユングやジョイスなどの研究に勤しんだ。以降38年間にわたり、文学、比較神話学、哲学などを教えた。

 36歳の時、インド研究学者ハインリッヒ・ジマーと出会い、大きな影響を受ける。精力的に著作を生み出す傍ら、講義のために世界を廻り、鈴木大拙と知り合うと、日本語も学びはじめた。彼の創造力と確信に満ちた講義は、人気を呼び、聴講していたジョージ・ルーカスが強い影響を受け、彼の講義が原点となって『スター・ウォーズ』が誕生したというのは、有名なエピソードである。

 学識の豊さだけでなく、温厚な人柄から、80歳の誕生日パーティには1000人もの人たちが訪れたという。消化器系を患っていたキャンベルは、1987年にハワイ、ホノルルの自宅で他界した。享年83歳だった。

 今日の私たちは、かつてないほど神話から離れてしまった。けれども、私たちの心の準備さえできていれば、神話を正しく理解することは、現実の世界での新たな洞察を、変容させる力をもたらしてくれるだろう。


Related Books

■ジョーゼフ・キャンベルの本

千の顔をもつ英雄 上、下 オンデマンド版
ジョーゼフ・キャンベル
人文書院
各2800円+税

数々の神話で、主人公が冒険の途上で直面する危機やジレンマ、死や再生などは、時代や場所が変わっても、現代の私達が人生で遭遇する出来事と本質的に共通している。だからだろうか、神話を読む時、私たちは登場する英雄と共に、同じカタルシスを感じる。残酷な話や理不尽な話も多いが、それはデフォルメされているだけであり、現実の世界となんら変わるところはないのではないだろうか。神話は人間の意識の奥底に眠る原型をわかりやすい形に取り出したものだという説がある。それは、宇宙創世の物語などが全く別の場所で生まれたのにもかかわらず、共通した要素を持っているのも、本来、人間全体が持っている共同無意識が生み出した物語だからだとすれば、理解できる話である。大きな変革の時代を迎える時、人は知らず知らずのうちに、内なる英雄を呼び起こす必要性を感じているのかもしれない。

神話の力
ジョーゼフ・キャンベル
早川書房
1000円+税

ふと目の前に現れる現象、偶然の出会い、夢の風景……。自分の深層と世界がつながっていることを感じるのは、そんな瞬間だ。神話は、そのようなシンボルの宝庫である。キャンベルは、個としての「自分」の意味を解く。外にある目的を達成するのに一生懸命で、<いま生きている>という内面の実感を伴った無上の喜びを忘れている現代人。神話というフィルターを通して語られる彼の言葉は、明快で、人生の素晴らしさを教えてくれる。

ジョーゼフ・キャンベルの神話と女神
ジョーゼフ・キャンベル
原書房
4500円+税

キャンベルの論考の中で、初めて女神を主題にした書。世界各地の神話、伝承をもとに、女神の変容の歴史を辿る。全編を通して、ゲーテの「永遠の女性なるものよ、引きてわれらを高みへと導かん」というフレーズが引用されている。神話学第一人者による、これからの女性へ期待と人間味溢れるメッセージ。

生きるよすがとしての神話
ジョーゼフ・キャンベル
角川書店
1240円+税

社会秩序と個人が重要視される今日、神話の果たす機能とは何なのか。身近な出来事から文学、芸術、精神医学、そして宇宙に至るまで、幅広い分野の例を挙げながら、独創的で深い洞察に富む見解によって、神話と共に豊かに生きる術を語る。

神の仮面 上
ジョーゼフ・キャンベル
青土社
2800円+税

さまざまな民族の神話を背景に成立した西洋神話。その重層的な構造を探究し、神話が形成される具体的な展開の内に、集団としての人間の意識と、それが押し隠す無意識のうねりがあると論ずる、画期的な西洋神話の集大成。

神の仮面 下
ジョーゼフ・キャンベル
青土社
2718円+税

神話はどのようにつくられたのか。ギリシア・ローマ・ケルト・アラブ・ペルシアなど、多様な神話の内には、興亡する神々のドラマが描かれている。ヨーロッパの歴史を踏まえ、それらの神々がまとう様々な仮面を、<超越的なもの>と<人間的なもの>の壮大な葛藤の反映として描く、西洋神話の透視図。

■神話を知るための本

元型論
C.G.ユング
紀伊國屋書店
5600円+税

意識の奥底には、太古の記憶につながる普遍的な無意識の層がある。「自分」の中に個を超えた意識があり、それが行動や社会の構成に大きな影響を与える、という考え方は、心理学に飛躍をもたらした。神話学、図像学、東洋学をふまえて語られる心理学の根幹。

セブンアローズI 聖なる輪の教え
ヘェメヨースツ・ストーム
地湧社
2200円+税

インディアンの長老が子どもたちに語り聞かせたのは、小さな鼠が聖なる力を捜し求める物語。平原インディアンの人々が幾世代にもわたって巻き込まれていった白人との戦いを背景に、ネイティブ・アメリカンのスピリッツを教えるたくさんの物語がちりばめられた、死と再生の叙事詩。叡知と神話力に満ちた比類なく美しい本。

セブンアローズII 心の目をひらく旅
ヘェメヨースツ・ストーム
地湧社
2300円+税

平原インディアンの人々が幾世代にもわたって巻き込まれていった白人との戦いを背景に、ネイティブ・アメリカンのスピリッツを教えるたくさんの物語がちりばめられた、死と再生の叙事詩の続編。教えは、あるときはシンボリックな出来事を借りて、一族の長老から子どもたちへと語り継がれてゆく。

セブン・アローズⅢ よみがえる魂の物語
ヘェメヨースツ・ストーム
地湧社
2500円+税

学びのための数々の物語がからみあいながら展開する最終巻。分裂していた人々が絆を取りもどし、自らの歩むべき道に再び目覚めてゆく。しかし歴史はいやおうなく人々に敗北を与えようとしていた。そして時は現代。彼らが学び、守り、伝えてきたスピリットは生きていた。

物語 北欧神話 上
ニール・ゲイマン
原書房
1600円+税

霧と炎が支配する世界に巨人と神々が生まれた。万物の父オーディン、その息子で雷神のトール、抜け目のないロキ。彼らをはじめとした神々は、世界を形づくり、豊かにしていく。断片的な詩や散文からなる複雑な北欧神話を、現代ファンタジーの巨匠ニール・ゲイマンが再話。後世の創作物に多大な影響を与えた神話が、物語となってよみがえる。

物語 北欧神話 下
ニール・ゲイマン
原書房
1600円+税

世界を見通す目を持つオーディンは、未来に備えた。雷神のトールは、強力な槌ミョルニルで巨人たちをうち倒していった。それでも神々は、定められた滅びへと突き進む。断片的な詩や散文からなる複雑な北欧神話を、現代ファンタジーの巨匠ニール・ゲイマンが再話。読みやすく、神話の面白さをたっぷりと堪能できる。

【used】ジェダイの哲学
フォースの導きで運命を全うせよ
ジャン=クー・ヤーガ 
学研プラス 
2300円+税

スター・ウォーズ・ファンはとてもラッキーだ。悩みや問題にぶち当たったとき、難解な自己啓発書や哲学書、過去の神話などを読む必要はない。『スター・ウォーズ』を見ればいいのだから。かっこいいキャラクターたちとともに、銀河の彼方の世界に入り込めれば、多くの示唆と教訓が得られてしまう。

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