アリス・ベイリー
イギリス生まれ。神智学協会系分派や秘教学校Arcane Schoolを創設。
ジュワル・クール大師から受けたという教えを広めた。
また、トライアングル瞑想の普及、慈善活動など様々な奉仕活動も推進。
「内光協会」に影響を与えた。
世の中には、特殊な感性や能力を持って生まれてくる人がいる。たとえば、自分ではないものからのメッセージを感受する、ミディアム(霊媒)的な素質を持った人。20世紀初頭、自動書記により18冊もの本を遺したアリス・ベイリーという女性もそのひとりだ。
1880年、アリス・ベイリーは、英国マンチェスターの裕福な家庭に生まれる。9歳までに両親が結核で他界。アリスは、妹と共に伝統的なクリスチャンである叔母にひきとられた。厳格な教育方針の元で育てられたが、多感な彼女は精神的な危機におそわれ、3回の自殺未遂を起こした。
15歳になったある日、彼女が一人で読書をしていると、突然、頭にターバンを巻いた見知らぬ男が目の前に現れる。そして、彼女の能力や将来について語りだしたのだった。この不思議な体験は、後の彼女の一生を象徴する出来事となる。
1902年、22歳の時、教会の日曜学校で教えていたアリスは、兵士のための保養所で働きだす。その仕事の延長でインドに渡航した際、兵士だったウォルター・エバンスと恋に落ちる。1907年、27歳で聖職者となったエバンスと結婚。夫婦でアメリカに渡る。
新天地での生活は、厳しいものだった。牧師の妻として努めたアリスは、3人の子供をもうけたが、夫はしだいに彼女に暴力を振るうようになり、結婚は破綻。彼女は生活を支えるために、朝4時に起き、子供を隣人にあずけ、工場で働き夕方4時に帰宅、日々の雑用をこなしてから深夜まで読書をするという毎日を過ごしていた。この頃から、ブラヴァツキーの著作に傾倒しはじめる。
ある時、神智学協会の聖堂の中に描かれた絵を見ると、15歳の時に現れた、クート・フーミ大師の姿がそこにあった。この事実によって、彼女は次第に自分の使命を考え始める。
1919年、39歳の時、神智学協会で働くフォスター・ベイリーと出会い、後に再婚。同じ年、ジュワル・クール大師からのメッセージを受け取る。大師は、彼女のすぐれたテレパシー能力を使い、彼の教えを思念伝達により筆記するよう要請したという。生真面目な彼女は、いったん申し出を断るが、大師の説得により、この使命を受けることを決意。
こうして、自動書記によって『イニシエーション』を初めとした数々の本を記したアリスは、神智学協会の中で一躍注目を浴びるようになる。ところが、アリス個人に対する反発、メンバーグループの派閥争いなどにより、協会内のトラブルは深刻化する。翌年には、アリス自身も協会を離れる道を選んだ。
1923年、43歳の時、夫となったフォスターと共に、アーケン・スクールを創立。スクールの出身者には、イタリアの精神科医でサイコシンセシス(統合心理学)を創始したロベルト・アサジオリがいる。大師から受け取る教えが自動筆記によって書かれ、出版され続けた。また通信教育を利用して、その教えを広めることにも努めた。
場合によっては、大きな権力にも発展しそうな活動だが、彼女の姿勢は一貫している。「私は大師の言葉を筆記した弟子に過ぎず、責任は大師にある。また著作の内容を全て理解しているわけでは無い。」このように、彼女は常にニュートラルな立場を守っていた。霊的な能力を持っている人が陥りがちな慢心を抱くことなく、謙虚さを持って尽力した。晩年においても、肉体の限界まで働くことに何の疑問も持っていなかったと伝えられている。1949年69歳の時、ニューヨークの病院でその生涯を閉じた。
アリス・ベイリーの著作は、今なお世界中で読まれている。19世紀に生まれた神秘主義の潮流が新しい社会の変化の中で次世代へとつなげられていく。彼女は個を超える使命に生きた女性だったのかもしれない。
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