仏陀(ゴータマ・シッダールタ)
本名はゴータマ・シッダールタ。
仏陀とは「目覚めた者」「真理を悟った者」の意味。
シャカ族の覚者の意味で、釈迦牟尼、釈尊と呼ばれることもある。
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仏教は、日本人の精神的な柱のひとつとなっている。敬虔な仏教徒であるか、と問われればその限りではないが、日々の暮らし、また人生の折節に仏教的な世界観は今も息づいている。その教祖ゴータマ・シッダールタは、仏陀・釈迦・釈尊として称されることが多い。仏陀とは覚者を表し、釈迦・釈尊は、シャカ族の聖者を表す釈迦牟尼世尊の略称である。今回は、ひとりの人間としてのゴータマ・シッダールタに光を当ててみたい。
紀元前5世紀頃、シャカ族の国は、現在のインドとネパールにまたがった比較的狭い地域にあった。隣接する強大なコーサラ国に従属していたが、古い起源を持つ極めて自尊心の強い種族だったようだ。アーリア人の聖典であるヴェーダの権威を全く認めていなかったところから、ネパール人と同様、モンゴロイドだったという説もある。シッダールタは、首都カピラヴァストゥを治める王・スッドダーナと、皇后、マハーマーヤの第一王子として出生した。母は、出産のために里帰りをする途中、ルンビニの花園の中で彼を出産。彼を生んだ一週間後にこの世を去った。
小国ながらも豊かであったシャカ国で彼は大切に育てられた。幼い頃から聡明ぶりを発揮した王子は、バラモンの学者に、五明(文典・論理学・宗教学・医学・技芸学)とヴェーダを学んだ。また、王は彼を喜ばすため、あらゆる歓楽を用意した。彼が同じシャカ族の娘、ヤショーダラーと結婚したのは16歳の時。妃は特に目立ったところのない典型的なインド女性だったようだ。しかしシッダールタは、年とともに深い瞑想に耽るようになる。真実と永遠を求める彼にとって、王族に与えられた豊かさは大きな苦悩となっていた。
29歳の時、一子ラーフラの誕生直後、シッダールタはついに出家を決意する。仏陀となる運命の彼にとっては必然の選択だったと言えるが、彼の家族にとっては理解しがたい仕打ちだっただろう。ちなみにラーフラは、9歳の時、シッダールタの弟子となっている。ヤショーダラーが、シッダールタの財産を相続するよう息子を促したため、シッダールタは思案の末、彼を出家させ精神的な財を相続させようとしたのだ。そして最高位の弟子であるサーリプッタに指導をゆだねる。それを聞いた王は、とても悲しみ、以後両親の許しのない子を出家させないでほしいとシッダールタに伝えたそうだ。複雑な家庭で育ったラーフラは、その後も苦難の道を歩む。唯一の実子であることから、シッダールタはことさら彼を厳しく扱った。後年、ラーフラは「密行第一」(戒律で定められたことを誰よりも厳密に守って実践する人)と呼ばれ、十大弟子の一人に数えられるようになるが、特に目立った活動もせず、ひたすら大人しく真面目に修行を続けた人生を送ったようだ。
さて話が前後したが、シッダールタが出家してしまうと、王は悲しみながらも彼を気遣い、5人の修行者を王子とともに修行させることにした。非常に厳しい苦行生活が送られたが、シッダールタの苦悩は去らなかった。彼は伝統的な修行法を捨て、共に苦行を行っていた5人の沙門とも別れ、独自の道を歩むこととする。ブッダガヤーの菩提樹の下で49日間の瞑想の後、ついに悟りは開かれた。シッダールタ35歳の時であった。
その後のシッダールタは、大悟した教えを人々に伝えるために生きた。彼の教えを請う人々は年々増加し、1000人以上の弟子から成る教団に成長。シッダールタは、当時としては驚異的な80歳という寿命を遂げるまで、教えを説き続けた。
彼は教えの中で、如来(タターガタ)という語を使った。「ありのままに来る者」という意味と共に、「真理の世界から衆生救済のために迷界に来た人」という意味がある。この一語に、彼の得た真理と彼の後半生が象徴されてはいないだろうか。世界が混迷を深める中、彼の教えは今もなお光を放ち続けている。
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