ヘレナ・ペトロヴナ・ブラヴァツキー
ロシア生まれの19世紀最大のオカルティスト。
24年に渡り世界各地を放浪。
マスターたちから秘教の奥義を受け、様々な遍歴、修行を重ねて、神智学協会を設立した。
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19世紀のヨーロッパに、オカルティズムの波が押し寄せた。その中心人物のひとりが、ブラヴァツキーという女性である。彼女達が興した「神智学協会」は、仏教、スーフィズム、東方ミトラなどの非西洋思想を取り入れ秘教的に伝えられてきたテクニックや思想を広く提示した。シュタイナー、グルジェフ、アリス・ベイリー、クリシュナムルティ、イェーツなど、20世紀のオカルティスト達は例外なく「神智学」の影響を受けている。ベールに包まれた秘密の扉を開けたブラヴァツキーとは、どんな女性だったのだろうか。
1831年、彼女はロシアの旧エカテリノスロフにて帝政ロシアの名家に生まれた。父はドイツ系貴族の職業軍人、作家の母は彼女が11歳の頃に死去。母方の家で育てられるも、祖父の仕事の都合で幼いころから転々とした環境の中で育った。幼い頃から夢見がちで想像力が強く、神秘的なエッセンスに触れる機会が多かったと言われている。
16歳で初めての結婚。しかし数ヶ月という短い期間だった。離婚後は飛び出すように家を出て世界中を旅行、最終的にチベットを目指したと言われている。
1873年、42歳の時、パリで霊媒師として活動していた彼女は、ニューヨークに渡り、バーモント州で開かれた降霊会の場で生涯の同僚となるオルコット大佐と出会う。この頃の彼女の興味は当時多くの研究家と同じく、古代密儀宗教発祥の地、エジプトに向かっており、その探求が1875年の「神智学協会」の設立の礎になった。
1878年、47歳の時、著書『ベールをとったイシス』を刊行。古代宗教、東洋思想、西洋秘教、現代科学を収束した1000ページもの大作だった。同年末、インスピレーションを受けた彼女達はインドに向かう。東洋秘教用語を積極的に取り入れ輪廻転生やカルマの法則、霊的進化論、そしてヒマラヤの「白色同胞団」(ホワイト・ブラザーフッド)に属する「マスター」の存在を説くようになった。
1882年、51歳の時、神智学協会の本部をインド・マドラス郊外のアディヤールに設立。オルコット大佐と共にヨーロッパ中を精力的に回り、東から来た導師として著名人の信奉者を集めた。
1885年にはロンドンに移住し、ブラヴァツキー・ロッジを設立。彼女の主著である『シークレット・ドクトリン』や、『神智学の鍵』を刊行。協会内部の確執、マスコミや世論から揶揄などを受けながらも、活動を続け、実践的な秘術を伝授するための少数精鋭のスクールを開設する。
予測不可能な行動で周囲を巻きこみ、スキャンダルや協会内のパワーゲームさえもエネルギーに変換する、カオスのようなブラヴァツキーは、偉大なオカルティストと呼ばれている。しかしそれは、彼女の存在を支えたオルコット大佐の冷静な判断力と理性によるところも少なくない。彼女自身が起こした奇跡の幾つかは、トリック的な面があったことも記録されているが、そんなことにもウィンクで応対するユーモアを武器に、自分自身の生き方を貫いた。
1891年、ロンドンにて多くの謎を残しつつ死去。肥満からくる合併症も原因の一つといわれている。
残されたブラヴァツキーの写真を見ると、その強烈な目の光と、怪異な風貌に驚く。生まれながらにして、数奇な人生を歩む運命を持っていたことを感じずにはいられない。古代から続く深淵なオカルティズムの「うねり」は、なぜ彼女を選んだのか。そして、彼女は、その運命をいかに認識していたのか。西洋と東洋、論理と非論理を結ぶ、ひとつの架け橋として、ブラヴァツキーという存在が残した足跡は計り知れない。
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