Meeting With Remarkable People #51

スワミ・ヴィヴェーカーナンダ

1863 - 1902

ベンガル生まれ。聖人ラーマクリシュナを仰ぎ、生涯グルの道を選び、厳しい霊的修練の生活を送る。
解脱後、霊魂の内に宿る真理の自覚とその実現を説いた。


 真理を求める人の中には、様々なタイプが存在する。自分の存在を賭けて真理に向き合う人、他者のために生きる人。超常的な感覚を持つ人、知による限界に挑む人。19世紀に生まれた、スワミ・ヴィヴェーカーナンダは、欧米にインド哲学を広めたことで知られている。類い希な知性を持って、東西の文化の壁を越え、多くの人の心をとらえた彼の生には、どんな意味があったのか。

 1863年、彼は、カルカッタの豊かな家に生まれた。俗名はナレンドラ・ナート・ダッタ。父はカルカッタ高等裁判所の弁護士だった。音楽好きの一家に囲まれ、彼もまた幼い頃から音楽に親しんだ。子どもの頃から宗教的傾向があった彼は、人目につかぬ場所で深く瞑想に没入してしまうこともあった。学校では、群をぬいて聡明で、サンスクリットの文法書やラーマヤナ、マハバーラタを暗記していたという。

 1877年、14歳の時、父に連れられ、学校のない地で2年間を過ごす。優れた人物であった父と非常に親密な時間を過ごした。16歳の時に復学。3年分を一年で習得し、大学入学資格試験にパス。カルカッタの大学の法学部に通い始める。

 1881年、18歳の時、聖人ラーマクリシュナと運命の出会いを果たす。ラーマクリシュナは歌う彼を前にして、その霊的魂の深さに驚いた。そして、彼が果たすべき霊的使命を預言した。1ヶ月もたたぬ内に、師の元を訪れた彼は、宗教的境地を経験。一瞬にして、心の変革が起こった。頻繁に師の元に通うようになったが、この頃、父が死去。彼は、ラーマクリシュナに帰依した。

 1885年、22歳の時、死を悟ったラーマクリシュナは、ヴィヴェーカーナンダに弟子達のことを頼む。しかし彼には、絶対者ブラフマンを悟りたいという強烈な願望があった。瞑想の中で、永遠の至福を求めることを渇望していた彼にとって、師の願いは重いものだった。それでも、人類の幸福のために働かねばならないという志を引き受け、自分の使命を果たすことを決意する。翌年、ラーマクリシュナが他界。彼は、20代の兄弟弟子たちとラーマクリシュナ僧団を結成した。カルカッタ市郊外に本部を置きながら、兄弟弟子たちと山々を越える厳しい修行に入る。

 1893年、30歳の時、初めてヴィヴェーカーナンダと名乗るようになった彼は、ボンベイから船でバンクーバーに向かう。そして、シカゴで開催された「世界宗教会議」に参加。これは、各界の宗教的指導者が集うという、歴史上はじめての会議だった。ここでヴィヴェーカーナンダは、インドの聖典を基盤に、ごく短いスピーチをした。彼の美しく力強い言葉は、聴衆を魅了、彼は一躍有名になる。これを機に、彼はアメリカとヨーロッパ各地を巡り、教えを説いてまわるようになった。また、アメリカ滞在中、ニューヨークで行った講演は、一連の本となって出版された。

 インドに帰国した彼を待っていたのは、熱狂的な支持だった。彼は、奉仕団を組織し、100カ所以上の僧院や社会施設を作った。東西を飛び回る忙しさの中で、「何者かが私に乗り移って、私に休息を与えないのだ」と言っていたそうだ。彼が話の最中に遙か彼方を見つめる表情をする時、弟子達は、きっと静かに思いにふけりたいのだと感じていた。「私は決して40歳までは生きない」と予言をしていた彼は、その言葉の通り、1902年、39歳でその生涯を終えた。

 ヴィヴェーカーナンダの言葉は、聡明さにあふれている。言葉では言い尽くせない深淵な教えを、知性を通して、欧米に伝えた彼の功績は大きい。その優秀さ故に与えられた役割を受け止め、個の欲求を超えて生きたヴィヴェーカーナンダ。今、彼の魂は安らぎを得ているだろうか。


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