カール・ランソム・ロジャーズ
アメリカの心理学者。
教育心理学博士であり、臨床心理学博士。
カウンセリングセンターの教授を経て、クライアント中心療法を研究。
人間研究センターを創設した。
カウンセリングという手法を編み出し、人間の心の解明に取り入れた、カール・ロジャーズ。カウンセラーとクライエントが対等の人間関係であるという対話のプロセスからなる心理治療は、彼のどんな人生から生みだされたのか。
1902年、アメリカ、イリノイ州シカゴ郊外で彼は生まれた。父は新進のビジネスマンで、エンジニアの分野で成功していた。一家は厳格なプロテスタントだったため、社交的な遊びは禁じられ、家族間の強い絆や勤勉さを重視した。病弱だったロジャーズは、友人をつくる機会が無く、空想的な世界に引きこもる孤独な子どもだった。
12歳の時、一家は大農園に引っ越す。農園生活は、彼に新たな可能性を開かせた。後にウィスコンシン大学に入学、科学農業の分野へと進む。2年生になった時、北京で開かれた「国際キリスト教学生会議」の代表として選ばれる。半年以上にわたるこの旅行の間、両親から与えられていた道徳的な宗教観から解放され、自らの信じる道を進むことを決意した。
18歳、帰国したロジャーズは心理学入門の通信講座に申し込む。22歳の時、歴史学の学士号を取得し卒業。その後、恋人だったヘレンと結婚し、二人でニューヨークに移る。ユニオン神学校へ入学するが牧師を目指す道は歩まず、コロンビア大学の教育学部に入学し、心理療法家としての道を歩み始める。
25歳の時、児童相談研究所のインターンとなり、翌年、ロチェスター児童虐待防止協会の児童研究部門に就職する。29歳、コロンビア大学で博士号を取得。博士論文は、「9才から13才までの子どもの人格適応の測定」。37歳で児童相談研究所の所長に任命された。
38歳からの4年間、オハイオ州立大学の教授職に就く。ミネソタ大学において「心理療法の新しい諸概念」を講演し、この日を<クライエント中心療法の誕生日>と呼ぶようになった。1942年、39歳の時、2冊目の著作『カウンセリングと心理療法』を出版。この分野で初めて「クライエント」という言葉を使った。この頃までに、面接を録音したテープは100本近くに及んでいた。
42歳、アメリカ応用心理学学会会長につく。この頃のロジャーズへの評価はうなぎ上りだった。44歳でアメリカ心理学会会長に就任。しかし、ひどく混乱したクライアントとの接触をきっかけに、2年間ほど深刻な抑鬱状態となる。この危機的体験によって自信喪失となるが、その絶望を自分の育てた教え子に援助されたと語る。
1957年、55歳、出身大学であるウィシコンシン大学に移る。心理学、精神医学の両学部で仕事ができるポストだったが、同僚たちとの衝突などにより心理学部を辞職する。しかし、彼の業績は着実に脚光を浴び、それまで以上に影響力を持つこととなった。
61歳、教え子が設立したカリフォルニア州ラホイヤにある非営利団体に招かれる。この頃には、初対面の人々が出会い、共通の体験をすることで人間的成長の機会を作る、エンカウンター・グループの第一人者とみなされるようになっていた。66歳の時、新たに人間研究センターを設立。精力的に仲間たちと研究を進め、晩年は各国の紛争地域でエンカウンター・グループを実施し、世界平和に力を注いだ。功績を認められノーベル平和賞候補にノミネートされるが、その報せを受ける直前、85歳でこの世を去った。
神秘化されていた心理療法のプロセスを克明に記録し、多くのセラピストを生み出したロジャーズ。一時代を築いた彼の業績は、20世紀という時代に大きな進歩をもたらしたと言えるだろう。
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