オルダス・ハクスリー
イギリス出身の小説家、作家。詩人。
神秘主義研究もおこなっていた。
医者を目指し、医学の道に進むも、失明同然となり、退学。
視力回復後は、英文学と言語学を専攻した。
サイケデリックという単語は、
彼とハンフリー・オズモンドとの文通から生まれた。
20世紀には様々な知性が花開いた。華々しい経済や科学の発展の陰で、人類の本当の知性とは何かを探求する流れも生まれた。作家オルダス・ハクスリーは、「新世代のインテリジェンス」を代表する一人だったと言えるかもしれない。
1894年、イギリスでオルダスは生まれた。彼の一家は著名な生物学者や作家を輩出する名門だった。祖父はダーウィンの進化論を支持した有名な生物学者、父は作家、兄ジュリアンは生物学者、弟アンドリューは生理学者でノーベル賞を受賞している。圧倒的な知識階級という環境の中で、彼の知性は育まれた。
母ジュリアが14歳の時に病死。17歳の時、医者を志しイートン校に入学するが、重い眼病のためほとんど失明状態となり、中退。20歳の時に第一次世界大戦が始まるが、視力が原因で兵役を免れた。
後に視力が回復し、オックスフォード大学に入学し、英文学と言語学を学んだ。卒業後イタリアに移住し、D・H・ロレンスと親交する。22歳の時、知的で風刺性の高い短編、長編小説を書き始める。1922年、28歳の時、マリアと結婚。後に息子マシューをもうけた。
1932年、38歳の時、未来小説『すばらしい新世界』を発表。完全に管理された人間社会を風刺を込めて描いた。世界大恐慌、そして戦争へと突入する暗い時代に、世界が夢見る未来社会とは何かをこの小説は問いかけた。1936年、42歳の時、自伝的要素の高い『ガザに盲いて』を発表。1938年、44歳の時、眼の治療のためアメリカに渡り、カリフォルニア南部に移住する。この頃、生涯を通じて交友したクリシュナムルティと出会う。1942年、48歳の時、『Art of Seeing』(見る技術)を発表。視覚再教育法(ベイツ・メソッド)について述べた。
当時、急速なスピードで普及していった心理療法、神秘思想、ボディワークなどに積極的に関わり、挑戦した。1944年、50歳の時、『永遠の哲学』を上梓。古今東西の神秘思想家の心に残る章句をテーマごとに集めたこの本は、自己とは何かを深く問い、究極のリアリティの直接体験を目指した。
1954年、60歳の時、メスカリンの体験を知性的に報告した体験談『知覚の扉』を発表。1955年2月、61歳の時、マリア夫人が肝臓がんのため死去。病床の夫人に彼は催眠術をかけ、少しでも痛みが和らぐように暗示を与えつづけたという。翌年、以前から知り会っていたローラと結婚。1958年、64歳の時、ブラジル政府に招聘され、リオデジャネイロを訪れ、原始的な部族民と喜んで交流した。1962年、68歳の時、最後の小説『島』を発表。『すばらしい新世界』と対比されるこの小説で、実現可能なユートピア像を次の世代に残そうと試みた。
健康状態は良くなかったが、講義やセミナー、インタビューや会議などを休むことなく続けた。
1963年、69歳の時、癌が口腔内にみつかる。病状が進むにつれて、視力はほとんど無くなり、首まで広がった癌のため、自分の頭を動かすこともできなくなった。死を目前にした彼は「LSDを100マイクログラム筋肉注射してほしい」と書いて妻に渡したという。妻がそれに応じたことにより、翌朝、ハリウッドの自宅で死亡。折しもケネディ大統領が同日に暗殺され、彼の死は大きく報道されることがなかった。
豊かな知性と学識を持ち、未知の世界にも旺盛な探求心を持ったハクスリー。彼の存在は新しい波を起こす人々に、勇気と力を与えたはずだ。理想社会を夢見た彼は、志半ばにしてその生涯を終えた。しかし、新世代のインテリジェンスとは何かを示すという使命は、確かに果たしたと言えるだろう。
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