SPECIAL INTERVIEW #14

「普通のくらし」をつくりたい。

気まぐれ八百屋だんだん子ども食堂主宰 近藤広子氏

6人に1人の子どもが貧困状態にさらされていると言われる、現代の日本。
そんな中、子どもの貧困対策の一つとして、「子ども食堂」が注目を集めている。
運営方法や形態は様々ながら、その数は現在、全国2千箇所あまりに増えている。
子ども食堂の先駆け的存在とされる
「気まぐれ八百屋だんだん」を主宰する、近藤広子さんにお話を伺った。


「近所は何しているの?」

「お米は3キロずつ分けて袋に入れて。あ、ひなあられも配りたいから、分けてね。お米を炊いて丼弁当にしたら、持って帰ってもらえるかもね」近藤さんのテキパキとした指示がお手伝いのスタッフ達に次々に飛ぶ。週一で開いていた子ども食堂は、コロナウィルス拡大前の2月から休業状態だったが、この日は給食業者などから寄せられた食材の配布準備で、忙しく立ち働く人々に溢れていた。

八百屋兼自然食品店を営む傍ら、学習支援としての寺子屋や大人向けの学習の場を設けていた近藤さんが子供に食事を提供し始めたきっかけは、店に買い物にやって来た小学校教諭との会話からだった。「『2010年に入学してきた子供の中に、一人親家庭でお母さんが精神疾患を抱えていて、調子が悪い時にはご飯が作れないから、給食以外は朝食も夕食もバナナ一本で済ませる子供がいる』って聞いて、涙が出ちゃったんです」。

しかし、涙を流すだけで終わらないのが行動的な近藤さんだ。「ここは元は居酒屋だったし、キッチンも何とかすれば使える。私たちがここで温かいご飯と具沢山のお味噌汁を一緒に食べることを始めればいいのかな」と決意し、実行に移す。
この純粋な気持ちが、現在の子ども食堂隆盛の先駆けとなった。厳密な特定は難しいが、近藤さんの「だんだん」こそは、全国の子ども食堂の第1号と言われることも多い。

ところがその原動力となったのは、実は子供の貧困問題をどうにかしたいという思いではなかったのだという。「私がすごく感じたのは、『近所は何しているの?』ってところだったんです。その子が貧乏であるとか、そういう気持ちは全くなかったんですよね」。近藤さんは、島根県の農家出身。誰か近くで困っている人がいれば手伝うのが当たり前、という助け合い精神の中で育ち、「声かけすらしないことはおかしいんじゃない?というのが根底にある」彼女にとって、隣近所の人を気遣うことは、ごく自然なことだったのだ。

「子ども食堂で貧困は救えない」

近藤さんが2012年に立ち上げた子ども食堂の話を聞いた別団体が「私たちも」と始め、じわじわとその波は広がっていった。「2015年に『こども食堂サミット』というイベントが東京の豊島区で開催されて、そこからバーッと『こども食堂=貧困対策』という形で広がってきた感じなんですよね」と、近藤さんは振り返る。

しかし、近藤さん自身はその図式には戸惑いも覚えているようだ。「結果的には色々抱えている子のお手伝いになったりもするとは思うんですけど、それができるのは、うちが関われる家庭だけなんです。子ども食堂で貧困は解消できません。(貧困対策を)全部やれるのは国なので、私たちが重責を負うこともないと思ってます」。

子供の頃から白黒はっきり付けたい性格だったと述懐する近藤さんは、歯に衣を着せぬ物言いで言い切る。仲間と共に立ち上げた活動は、世に知られるようになるにつれ、企業からの子ども食堂立ち上げの相談もあったという。「『企業は、子どもたちがきちんと就職できるその就職先になること、自分たちがちゃんと受け皿になることが責任として大事なことなんじゃないですか』って言ったことも、過去にはあります」。

「人との関わりっていいんだな」

一人歩きを始めた子ども食堂は今や、いろいろな役割や期待を負わされているが、近藤さんには気負いや力みは全くない。「子ども食堂の役割とか居場所とか、色々言われるんですけど、私は役割をこなせるほど力無いですから、無理です。できることはやるっていう、ただそれだけ。そこまで力一杯やってたら、続かないです。それに、『助けるぞ』とか、『なんとかするぞ」みたいなところに人は近寄れない。本当に、適度な力加減ででやらないと、疲弊しちゃうんですよね」。

図らずも先駆者として矢面に立たされることも多く、心が折れることもあったという近藤さん。「人って勝手なことを言ってくれます。自分の思いから(子ども食堂が)一人歩きして、有識者の方達がそれに対して評価したり、批判したり、色々します。食育とかも期待されるんですけど、各省庁は、一番大事な地域のつながりについてはあまり言ってないですから」と苦笑いする。

近藤さんは、「だんだん」という場所を、つながりを体験し、学ぶことのできる「ミニ社会」と形容する。週一で開かれる食堂は大人も歓迎、子供はワンコインで利用できる。百円玉が手元にない場合は一円玉でもゲームコインでも可など、懐が広い。食堂以外の日は、自然食品や野菜を販売する傍ら、大人や子供向けの教室やサークルなど、さまざまな学びや集いの場を提供する。周囲の要望から始めた八百屋は、実は「明日にはもうやめてもいい」という気持ちでやってきたという。

「それでも、『開いていて良かった』とか『来てお話して良かった』とか言っていただけると、『ああ、じゃあ明日もやっぱり開けるか』って思うんです」と明るく笑う。育ち盛りの三人の子育てや家事、歯科衛生士の常勤と並行しながらの食品店や食堂運営の大変さは、想像に難くない。幼い頃から「男の子には負けたくなかった」という頑張り屋さん気質がその芯にあるのかもしれない。
「自分が辛い時になんとなく喋ってくれる子もいます。だから、大人も子供も、『人の関わりってやっぱりいいんだな』って気づける場所の一つが子ども食堂だ、と今は思っているんです」。

「日々淡々と」

精力的に活動を続けるバックボーンとなるものは一体、何だろうか。近藤さんは「ただ『日々淡々と』ですよ。本当に、普通にくらせることが一番良いって思ってますから」とはにかむ。

「普通の暮らし」を目指す心は、裏を返せば、それが様々な事情でなかなか味わえない子どもたちを思いやる優しさとなる。自分のできることをできる範囲で堅実に行う近藤さん。仲間たちと苦労して育んできた場の将来の展望も、現状維持を目指す。「あまり広げたいとも思わないですし、ここを基盤としてしっかり作っていけば、次の世代に渡せるかな」。

気負わず、無理せず、でもどこまでも暖かで、どっしりと地域に根ざす。近藤さんの子ども食堂に来ていた初代の子供たちが成人、自立した今もなお、企画や運営のお手伝いに通ってくるという話を伺って、未来へのバトンはすでに渡されつつあると確信した。


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