エーリッヒ・フロム
ドイツ生まれの精神分析学者、社会学者。
フロイトの精神分析とマルクス主義とを結びつけて社会的性格論を展開。
ヒューマニズムと自己実現論が基調。スイスで死去。
1940年代のニューヨークには、世界の知の先端を担う、「ニューヨーク知識人」と呼ばれる人々がいた。哲学、思想、社会学、心理学等の新しい波を起こした渦の中に、エーリッヒ・フロムもいた。20世紀を代表する社会思想家と呼ばれ、知と精神を探求し続けた彼の一生を追ってみたい。
1900年、ドイツ、フランクフルトに生まれた。彼の家は古くから、ユダヤ教の律法学者の家系で、曾祖父も祖父もラビだった。父は小さな商売を営む商人だったが、そのことを恥じてもいた。フロムは幼い頃から、祖父たちにあこがれを持ち、真摯な熱意でユダヤの教えに耳を傾けた。13歳になると、タルムード学者になるため、本格的に研究を始める。
1914年、第一次世界大戦が勃発。1918年、18歳の時、高校を優等で卒業し、フランクフルト大学へ入学。当初、法律を専攻した彼だったが、自ら不向きと判断。社会学、心理学、哲学を学んだ。この頃、フランクフルトのユダヤ知識人との交流が深まり、マルティン・ブーバーに深く影響を受けたという。1922年、ハイデルベルク大学でアルフレッド・ウェーバー(マックス・ウェーバーの弟)らの指導の下に学位を取得。その後、精神分析を行うようになる。1926年、26歳の時、同僚で10歳年上の精神分析家フリーダ・ライヒマンと結婚。この頃、様々な理由から、正統派ユダヤ教から離れる。仏教にも出会い、大きな感銘を受ける。
1930年、30歳の時、フランクフルト社会研究所の心理学顧問に就任、ベルリンで開業する。妻フリーダとは破局を迎え、また同時期に結核を患った。彼は研究を中断し一年以上治療した。この頃から、ドイツではナチスの活動が活発になる。敵対組織とみなされた彼の研究所は閉鎖。1934年、32歳の時、彼は仲間と共にアメリカへ亡命した。
アメリカでは、イェール大学で教鞭をとり、その後ニューヨークへ渡る。彼はフロイト学派の精神分析家であったが、その理論に対する批判や修正を精力的に行っていた。賛同する人も多かったものの、次第に彼への批判の声が高まり、1939年、終身在職権を放棄して研究所を去る。1940年、アメリカ市民権を得る。新しい社会、仕事、外国語に溶け込んでいた彼は、臨床分析家として成功を収めていた。1941年、41歳の時、『自由からの逃走』を出版。様々な分野の人々から注目を集める。1944年には、へニー・グルラントと二度目の結婚。公私共に充実期にあった。
しかし、1951年、51歳の時、妻の健康状態が悪化したため、気候の良いメキシコへ移住するも、翌年、妻は他界。しかし、その2年後、メキシコで出会ったアニス・フリーマンと三度目の結婚、生涯連れ添った。メキシコへ移住してからの彼は、著作家としての全盛期を迎え、スイスに移り住む1973年までに、16冊の本を出版する。1956年、『愛するということ』を出版。幅広い読者層を獲得した。1957年、かねてから仏教や禅に興味があった彼は、メキシコの自宅に鈴木大拙を招き、共同セミナーを開く。
1962年、ニューヨーク大学の精神分析学の教授の地位につく。その後も精力的に執筆活動を続けたが、心臓発作が繰り返し起こり、健康状態が悪化していった。スイスに永住することを決意したフロムは、最後の熱意を著作に傾ける。1980年、80歳を目前にした3月18日、心筋梗塞のためスイスの自宅でその生涯に幕を閉じた。
あらゆる「正統派」に疑問を提示し、真摯な態度で、ひとりの人間としての真実を求めたフロム。彼が見いだした新しい社会へのビジョンは、ひとつの知の潮流となって、今も流れ続けている。
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