Meeting With Remarkable People #62

孔子

B.C.551 - B.C.479

春秋時代の中国の思想家、哲学者。
儒教の始祖。「五十にして天命を知る」など、
現代に残る数多くの名言を残した。
『論語』は、孔子の死後、約400年をかけて孔子の教えをまとめ、
弟子たちが編纂したもの。


 儒教文化は、中国、韓国、日本の根底に流れるひとつの潮流である。礼を重んじ、祖先を敬う。他の思想に比べると、より模範的な倫理観を重視すると思われがちだが、その始祖である孔子自身が、シャーマニズム的思想を持っていたことは意外に知られていない。

 紀元前551年、春秋時代にあった中国で孔子は生まれた。姓は孔、名は丘、字は仲耳(ちゅうじ)。父は武人である孔紇(こうこつ)、母の顔徴在(がんちょうざい)は「儒」と呼ばれる呪術師の家系であり、正式な結婚ではない野合の子であったという。父が3歳の時に亡くなり、孔子は農作業を行いながら、貧しい生活を送った。過酷な環境にあったが、強靱な肉体と明晰な頭脳を持った青年は、15歳にして学への志を持つようになる。

 20歳を過ぎた頃、穀物を管理する村役人として採用された彼は、独学によって知識と教養の研鑽に努めた。彼にとっての師は、儒の一族による「裏の学問」と、古の賢人達が残した君子の政治学だった。孔子は、狭義のシャーマニズムの限界を知り、人間と社会全体に思いをはせるようになる。次第にその学識は世に知られるようになり、彼のもとで学びたいという若者が集まるようになった。孔子は役人を辞め、中国史上初の私塾を開くことを決意する。また、彼自身も政治の中枢に参画して、自らが信ずる正しい道を実現したいとの宿願を持つようになった。「三十にして立つ」とは、自分の運命を見いだし、対峙する決意を固めたことを表している。

 孔子の評判は高まるばかりだった。しかし、政治の表舞台に立つ道はなかなか開けなかった。自身が生まれ育った魯の国内でも、また、隣国の斉に自分自身を売り込みにいっても、なぜか宰相になることができない。焦りといらだちが彼を苦しめた。孔子の「四十にして惑わず」という言葉は、そんな自分自身を諫め、より本質的な次元を求める姿勢を自分の中に確立した、ということかもしれない。

 その孔子が、「五十にして天命を知る」と言い切ったのは、どんな状況の変化の現れだったのだろうか。たしかに52歳から56歳まで、孔子は念願だった魯の国の大司冦となっている。当時、孔子には、常に行動を共にする弟子達がいた。『論語』は、この弟子達との問答を主に記したものだが、その中で孔子が最も信頼していたのが、顔回だ。顔回は「一を聞きて十を知る者」と孔子に言わしめた若き弟子だが、その名が示すとおり、儒の一族の出である。孔子は、「鬼神は敬して遠ざける」と言い、万人がよりよく生きていくための知恵を説いた人だが、その根底には、やはりスピリチュアルな力についての思想が流れていたことが考えられる。天の意志を受けて現実を動かすためには、スピリチュアルな流れが必要だった…。その後、顔回が若くして夭折した時、「天は我を滅ぼせり」と号泣したという伝説も残っている。

 孔子が政界に君臨したのは、わずか5年。その後は、時の敵対勢力の弱体化に失敗し、主だった弟子を従えて魯の国を去り、衛・曹・宋・鄭・陳などの諸国を十四年間にわたり放浪した。晩年は、教育と古典の整理に従事した。そして弟子達に見守られながら、74歳でこの世を去った。

 彼が説いた教えの中で最も重要なのは、「仁」と「礼」という考え方である。「仁」とは、天の流れを生かし、自己の欲求から離れ、相手を思いやる心。無為自然ともまた違い、自分からそうするという主体性がそこにはある。また、天と人間を結ぶ共通のルールを「礼」として表現した。人間が感性のままに行動すれば、多くの混乱や矛盾が生まれる。しかし、「礼」を守ることによって、人智を超えた難しい局面も自ずと乗り越え、正しい道へ進んでいくことが可能になると説いた。人間が現実の中で生きていくための知恵。それは2500年もの時を超えて、今もなお息づいている。


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