宮沢賢治
岩手県花巻出身。作家。
独自の世界観の幻想的な作品を生み出す。
農学校の教師や農民として生活、生前は作家としては無名の存在であった。
膨大な未発表作品を遺した。
現実と夢の世界、生と死の境界を自由に行き来する登場人物たち。風や光、動物や植物、森羅万象との関わり。
宮沢賢治の作品は、神秘的な魅力に溢れている。多彩な顔を持つ彼の一生とは、どのようなものだったのか。
1896年、岩手県花巻町に生まれる。家業は祖父の開店した質屋、古着商で、家は富裕だった。
宮沢家は浄土真宗の檀家で、父は熱心な信者だった。賢治も3歳の頃には、お経を聞き覚え、暗誦するようになった。
彼は、昆虫の標本作りや鉱物、植物採集に熱中。周囲から「石っこ賢さん」と呼ばれた。
小学校では、六年間全科目甲、優秀賞、精勤賞を受ける。県立盛岡中学校へ入学すると、寄宿舎自彊寮に入ったが、17歳の時、
舎監排斥運動が起こり、彼も退寮処分となる。そのため、徳玄寺に居を移した。1914年、18歳の時、岩手病院に入院していた彼は、ひとりの看護婦に恋をした。父に結婚の許可を求めたが、反対された。また進学についても、やはり父に反対され、彼は、失恋と将来に対する閉塞感からノイローゼ気味になった。その姿を見かねた父は、進学を許可。
1915年、19歳の時、盛岡高等農林学校に首席入学を果たした。翌年、特待生に選ばれ授業料を免除される。21歳の時、小菅健吉、保阪嘉内、河本義行らと同人誌『アザリア』を創刊し、短歌、短篇を発表。父に隠れて日蓮宗を信仰し始めていた賢治は、父との確執が深まっていく。学校を卒業後、徴兵検査を受けるが、結果は第二乙種で兵役が免除された。研究生となり、土性調査に携わる。この年、妹トシが肺炎のため入院。賢治も看病のため上京。この頃から童話創作を開始する。
1919年、23歳の時、人造宝石業の具体的な計画を提示したが、父から却下され、計画を断念し帰郷。質屋、古着商の店番という不本意な生活を送る。その傍ら、野菜作りに精を出す。この年、群立農蚕講習所の講師となり、教壇へ立つ。
1921年、25歳の時、家に無断で上京。日蓮宗の国柱会本部を訪れる。半年近く街頭で布教活動を行うとともに、文筆による布教を決意して、創作に励んだ。しかし、トシの病気の知らせを受け、トランク一杯の原稿をかかえて帰郷。以後、数ヶ月に渡り、多数の作品を書いた。稗貫郡立稗貫農学校の教諭となる。
1922年、26歳の時、『春と修羅』収録詩篇の制作始まる。この年、妹トシが24歳の若さで他界。その死は、『永訣の朝』『松の針』『無声慟哭』に綴られた。翌年、賢治は樺太に旅行しているが、これは、亡くなった妹トシとの霊的交信を目的とする旅でもあったという。1924年、28歳の時、『春と修羅』『注文の多い料理店』を自費出版。翌年には、教師を辞めて百姓になる決意を持ち始めた。農民青年、篤農家に稲作法や土壌学、植物学などの講義を行う定期集会の開催、近隣農村に肥料設計相談所を設置した。同時に、農民たちに芸術の重要性を唱え、レコード鑑賞会やコンサートを開き、子どもたちには自作の童話を聞かせた。
1928年、32歳の時、日照りが続き、農村の指導に走り回る。過労と栄養失調が重なり、ひと月以上、熱と汗に苦しんだ。翌年、病から回復した彼は、東北砕石工場の技師となり、宣伝販売のため上京。しかし、無理がたたって再び発熱。死を覚悟した彼は、手帳に『雨ニモマケズ』を書き留める。その後も病床にて意欲的に創作活動を続けたが、1933年、35歳の時、病状が急変。「法華経千部を刊行して知人に配布して欲しい」と遺言を残し、息を引取った。
東洋的な仏教観、西洋的な抒情精神、大自然への憧憬が複雑に絡み合った賢治の宇宙。それは、今もなお、時代を超えて、日本人の魂に響く音色を放ち続けている。
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