Meeting With Remarkable People #66
ニコラス・コンスタンチノヴィチ・レーリッヒ(ニコライ・リョーリフ)
1874 - 1947

ドイツ系ロシア人画家。神智学者、探検家、思想家。
チベットに伝わる理想郷「シャンバラ」を探すため、アジアを探検した。
シャンバラ思想による世界の平和を理想とした。


1874年、レーリッヒは、ロシアのサンクトペテルブルグに生まれた。父は法律家で、芸術家や東洋学者などの知識人が頻繁に家を訪れる裕福な家庭に育つ。美しい自然に囲まれた土地、イシュヴァラで過ごした幼少期は、古墳の周りをシャベルを持って掘り、発掘物に興味を持つ少年だった。

1893年、20歳の時、美術学校へ進むことを望むが、父親に反対される。絵画と共に法律も学ぶことを条件に、ペテルブルグ大学法学部とペテルブルグ美術アカデミーへ同時入学した。風景画のA・I・クインジに師事し、大きな創造性や個人的衝撃を受けたレーリッヒの画風は、深い歴史性と風景の美しさを合わせもつものへと深化した。

大学を卒業した彼は、美術雑誌の編集者となる。翌年、ヘレナ(エレーナ)・イヴァノフナに出会い、やがて婚約した。1900年、27歳の時、パリに留学。ゴーギャンを始め、多くの芸術家から影響を受ける。パリから帰国した彼は、エレーナと結婚。美術振興協会の書記となった。パリ留学の後、約2年間で40ケ所の都市を旅して、大聖堂や歴史的記念物をスケッチした。

創作意欲に溢れ精力的に活動していたレーリッヒは、世界各地で開かれたロシア美術展覧会で作品を展示、名声を得た。また、教育に関しても手腕を発揮、33歳の時には、美術振興協会付属美術学校の校長になる。生徒にはマルク・シャガールもいた。1912年、39歳の時、ストラヴィンスキー作曲、ニジンスキー振り付けの『春の祭典』の舞台美術を担当する。1916年、43歳の時、健康不良から美術学校の校長を辞職。家族と共にカレリア地方へ移住。この頃から神智学にも関心を持ち始めた。

かねてから、東洋思想に興味があった彼は、ラーマクリシュナ、タゴールなどに深く感銘し、インドの地へ足を踏み入れたいと考えた。しかし、社会主義のソ連からインドへの旅行は困難を極めた。1920年から、レーリッヒ夫妻は、モリヤ大師という霊的な存在から、メッセージを受け取り始めたと言われている。それらのメッセージは、のちにアグニ・ヨガとしてまとめられた。また、この頃から、ニューヨークに拠点を置き、全米各地で「衣服とオーラの調和」をテーマにした講演などを開く。

この成功に続いて、1922年、国際芸術センターであるコロナムンディを創設した。このセンターは学校、病院、工場、刑務所などで、巡業展覧会を実施する事を目的としていた。その理念には芸術は一つであり、人類を分断することはできないという考えが根底にあった。

1923年、50歳の時、ニューヨークの邸宅をミュージアムとした『レーリヒ美術館』を開設した。同じ年の5月、ニューヨークを離れ、ヨーロッパ経由でインドへ向かう。翌年には、インド東北部シッキムとブータンの探検旅行を行った。その後も、アルタイ、モンゴル、チベット横断などの探検を約3年に渡って実施。ラマ教信者から、チベットに伝わる「シャンバラ」の伝説を聞き、その理想郷を探すため、家族らと共にアジアを探検した。

第一次世界大戦中、文化財の破壊を目の当たりにした彼は、武力紛争時も相手国の文化財を破壊せず、保護する事を国際的に取り決めた「レーリヒ条約」の草案を発表。タゴール、アインシュタイン、H・G・ウェルズらが支持した。1929年、56歳の時、パリ大学によりノーベル平和賞候補に挙げられる。また、白地に真紅色で3個の球を一つの円で囲んだ、平和の旗をレーリッヒはデザインした。この三位一体のデザインは、宗教、芸術、科学を文化の環で統合したもの、または、過去、現在、未来の人類の業績が永遠の環によって守られているなど、さまざまな解釈が可能とされている。

世界各地で「レーリヒ協会」が設置される中、中央アジアからチベットの探検を綴った『シャンバラの道』(絶版 / 中央アート出版社)を出版。58歳の時には、ヒマラヤの自然と人間の研究を目的とする「ウルスヴァティ研究所」を設立した。61歳の時には、中国北部を探検し、砂漠の拡大を防ぐ植物の調査を目的に、日本にも訪問している。
その後、インドを拠点に、研究と創作活動に専念。しかし、大戦やインド分裂による国際情勢の変化は、彼の心を悩ませ、急激に肉体を衰えさせた。1947年、74歳の時、死を予感した彼は帰国を準備するが、心臓が弱り息を引き取った。その傍らには、雄大なヒマラヤ山脈を飛ぶ、白い鷲を描いた未完の絵が残されていた。

彼の描いた神秘的な風景は、国境を越えて、多くの人の魂をゆさぶる。精神的な豊かさと文化が花開く未来は、「美の力」によって成し遂げられると信じたレーリヒの、神秘の王国「シャンバラ」は、今も脈々と生き続けている。

■ニコライ・リョーリフ美術館
https://www.roerich.org/


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