アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ
フランスの小説家。20世紀における最も詩的な飛行士。
空を飛ぶことの素晴らしさを文学という形で残した。
代表作『星の王子さま』は200以上の言語に翻訳されている。
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なぜ憎みあうのか? ぼくらは同じ地球によって運ばれる連帯責任者だ、同じ船の乗組員だ。新しい総合を生み出すために、各種の文化が対立するのはいいことかもしれないが、これがおたがいに憎みあうに至っては言語道断だ。
精神の風が、粘土の上を吹いてこそ、はじめて人間は創られる。
―『人間の土地』より―
サン=テグジュペリは、1900年フランス中部リヨンで名門貴族の長男として生まれる。大祖母が所有する自然豊かな城館が住まいだった。母は文学や音楽の教養があり、絵画は作品が買い上げられるほどの才能の持ち主だった。金髪のサン=テグジュペリは、「太陽王」と呼ばれ可愛がられていたという。『星の王子さま』に登場する王子さまは、きっと彼の分身なのだろう。
著書『戦う操縦士』に「……ぼくはどこの者か、ぼくは少年時代の者だ。ぼくはひとつの国の者であるように子供時代の者だ……」とあるように、幼少時代の幸せな記憶は、彼の核となっているに違いない。3歳の時に父が亡くなり、16歳で2歳年下の弟を、26歳で姉を亡くしているが、感受性の鋭い彼は、愛する者の死について夢想することで安らぎと愛を見つけていたのかもしれない。
父の母校であるイエズス会のノートルダム・ド・サント・クロウ学院などに通ったが、第一次世界大戦開戦以降は寄宿学校を転々とし、寂しい寄宿学校生活を送ったようだ。12歳の夏休みに生まれて初めて飛行機に乗り、空に憧れるが、親族からは海軍士官になるよう定められていた。しかし、海軍兵学校の入学試験に不合格となり、パリ美術学校の聴講生になった。
1921年、フランス軍の航空隊に入るが、操縦訓練を受けられなかったサン=テグジュペリは民間飛行免許を取得した。しかし、その後兵役終了とともに除隊し、タイル製造会社に入社する。それは婚約者ルイーズ・ド・ヴィルモランから、危険な飛行士は好まないと言われたためだったが、結局、二人の婚約は破棄された。
飛ぶことを諦めきれず、26歳で郵便飛行士の道を選ぶ。ラテコエール航空会社に採用された彼は、南仏トゥールーズからアフリカ、ダカールまでの郵便輸送のためのパイロットとして働き始め、フランス民間航空の開拓者ジャン・メルモースや、アンリ・ギョメと友人となった。
その後、サハラ砂漠の中央に作られた郵便航路の中継基地、カップ・ジュビーの飛行場長を1927年から1年半務める。任務は、植民地支配に抵抗する現地の部族ムーア人とのさまざまな交渉や、サハラ砂漠に不時着した飛行士の救出だった。それらを遂行する一方、夜には『南方郵便機』を執筆した。海と砂漠以外何もない孤独な場所だった。
29歳の時、飛行場長の任務を終えたサン=テグジュペリは、郵便航空路線の夜間飛行航路を開発するため、アルゼンチンに赴く。ブエノスアイレスで一目惚れしたコンスエロと31歳の時ニースで結婚。そして『南方郵便機』『夜間飛行』を出版した。35歳の時、巨額の賞金を狙い、パリ=サイゴン間の長距離飛行の記録更新に挑戦するが、リビア砂漠に事故で不時着し、機関士プレヴォと砂漠で3日間生死を彷徨い、遊牧民に救われて奇蹟的に生還を果たした。この体験が『星の王子さま』の基となった。
1939年、第二次世界大戦が開戦。サン=テグジュペリは偵察飛行機のパイロットとしてフランス軍に志願し、従事する。しかし、動員が解除された後も戦況は悪化していった。その頃、『人間の土地』がアカデミー・フランセーズ小説大賞を受賞し、翌年には英語に翻訳され、アメリカでベストセラーとなる。そしてドイツ軍の侵攻で戦線が崩壊する中、出版社から渡米を誘われ、サン=テグジュペリはアメリカに亡命した。しかし、英語を学ばなかった彼は友人ができず、また、米国在住フランス人の間で起きた政治的争いに巻き込まれ、一層孤立を深めた。そのような折に、出版社のオーナーから童話を書くことを奨められ、それを受けて完成したのが『星の王子さま』だった。
作家として名声を確立していたサン=テグジュペリだったが、再び自ら志願して北アフリカ戦線へ復帰する。飛行士の年齢は32歳までと決められていたが、42歳の彼は厳しい訓練を重ねた。機体破損事故を起こして任務を外されるも、再び基地に戻った彼は、飛行回数の制限を無視して幾度も空へ向かった。そして1944年、コルシカ島から偵察飛行に出たまま、地中海で消息を断った。44歳の若さだった。
彼の最期は長い間謎に包まれていたが、その後元ドイツ軍飛行士が撃墜したのは自分であると公言。彼自身もサン=テグジュペリのファンだったと明かし、彼だと知っていたら撃たなかったと語った。
航空技術の発達していない当時、飛行は常に命の危険と隣り合わせだったが、その危うさこそが、人間が忘れてしまった「何か」を取り戻すために、サン=テグジュペリにとって必要なものだったのかもしれない。尽きることなく人間本来の姿を求めるサン=テグジュペリの精神と生き方は、今も多くの人々の心を揺さぶり続けている。
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